まるで連なったソーセージ? COVID-19 重症化因子 ORF6 タンパク質による凝集体の動態観察に成功!

掲載日:2023-10-3
研究

 

 

 金沢大学大学院新学術創成研究科ナノ生命科学専攻/ナノ精密医学・理工学卓越大学院プログラム履修生の西出梧朗(博士後期課程 2 年),金沢大学ナノ生命科学研究所のキイシヤン・リン特任助教,安藤敏夫特任教授,千葉大学大学院薬学研究院の西田紀貴教授,金沢大学ナノ生命科学研究所/新学術創成研究機構のリチャード・ウォング教授らの共同研究グループは,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)タンパク質の一つである Open Reading Frame 6(ORF6)(※1)が形成した,円形や線状の凝集体の動態観察に初めて成功しました。

 SARS-CoV-2 は驚異的な感染力を備え,重篤な肺炎を起こすウイルスであり,その感染症COVID-19 は 2019 年以来社会活動に甚大な影響を及ぼしています。ORF6 は,SARS-CoV-2が宿主細胞へ感染後に発現し,核膜孔(※2)を介した宿主の正常な生体分子輸送を阻害するだけでなく,最も強力なインターフェロン(IFN)(※3)アンタゴニストとして IFN 経路活性化も阻害するため,COVID-19 重症化因子の一つであることが分かっています。しかし,数 nm(10-9 m)の小さな ORF6 の挙動すなわち分子動態情報が不足しているため,創薬には至っていません。

 本研究では,サイズ排除クロマトグラフィー法(SEC 法)と核磁気共鳴分光測定法(NMR法)(※4)を用いて,ORF6 が自己集合してオリゴマー(※5)化し,一部の領域は柔軟な構造をとることを発見しました。さらに,高速原子間力顕微鏡(高速 AFM)(※6)を用いて,ORF6 はオリゴマーをもとに,疎水性相互作用を分子間力とした円形や線状の凝集体を形成することを観察しました。また,肺がん細胞における ORF6 の蓄積は Interleukin-6(IL-6)(※7)発現を誘導することから,COVID-19 患者の肺病理やアミロイド関連の合併症発症に寄与している可能性を見いだしました。

 これらの知見は将来,COVID-19 やその重症化における新たな治療法の確立に貢献することが期待されます。

 本研究成果は,2023 年 9 月 14 日(米国東部時間)に米国科学誌『The Journal of Physical Chemistry Letters』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

    図1: ORF6の凝集体
     高速AFMによる直接観察から,ORF6はオリゴマーやプロトフィブリル,アミロイド線維といった凝集体を形成していることが分かりました。

     

     

    【用語解説】

    ※1:Open Reading Frame 6(ORF6)
     全長 61 アミノ酸残基,約 7 kDa の大きさを持つ,SARS-CoV-2 アクセサリータンパク質の一つです。C 末端領域は宿主細胞のタンパク質との相互作用に重要であることが知られています。

    ※2:核膜孔
     細胞核を取り囲んでいる二重膜構造である核膜に存在する微小な孔のことです。核膜孔は,細胞質と核の間で生体分子が出入りする唯一の通路となります。

    ※3:インターフェロン(IFN)
     ウイルスや他の微生物に感染した際に免疫応答を活性化するために産生されるタンパク質のことです。主に免疫系の細胞によって産生され,抗ウイルス特性,増殖抑制や免疫調節などの活性を示します。

    ※4:核磁気共鳴分光測定法(NMR 法)
     静磁場の中に置かれた原子核が固有の周波数の電磁波と相互作用する現象(核磁気共鳴)を利用して,分子や物質の構造とダイナミクスを測定する手法です。観測可能な原子核(1H,13C,15Nなど)をその原子核が置かれている化学的環境の差によって分光することができます。

    ※5:オリゴマー
     単量体と呼ばれる基本単位がいくつか結合した重合体のことを指します。

    ※6:高速原子間力顕微鏡(高速 AFM)
     探針と試料の間に働く原子間力を基に分子の形状やその動態をナノメートル(10-9 m)程度の空間分解能とサブ秒という時間分解能で可視化する顕微鏡です。

    ※7:Interleukin-6(IL-6)
     免疫応答や炎症反応を調節するタンパク質であり,感染や炎症時に産生されて免疫細胞の活性化や体内プロセスの調節に影響を与えます。過剰に産生されるとサイトカインストームを生じ,多臓器障害を誘発します。

     

     

    プレスリリースはこちら

    ジャーナル名:The Journal of Physical Chemistry Letters

    研究者情報:リチャード・ウォング(Richard Wong)

     

     

     

     

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