体内時計の周期を決定する細胞を特定

掲載日:2023-9-20
研究

 

 

 金沢大学医薬保健研究域医学系の津野祐輔助教,三枝理博教授らと,東京都医学総合研究所,明治大学の共同研究グループは,体内時計の1日の長さ(周期)を決定する細胞を明らかにしました。

 ヒトを含む哺乳類では,昼夜の変化に対応して,睡眠や行動,体温,ホルモン分泌などが約 24 時間の周期で制御されており,これを概日(サーカディアン)リズムと呼びます。概日リズムを制御する体内時計の中枢は,視床下部の一部である視交叉上核にあります。しかしながら,視交叉上核内の多種・多数の神経細胞がどのように相互作用して,視交叉上核全体で統一された概日リズムを生成しているのか,そのメカニズムには未解明の点が多く残されていました。

 この度,本研究グループは,脳内の物質 “バソプレシン(※1)” を産生する神経細胞が,視交叉上核の他の神経細胞の周期を調節し,視交叉上核全体,ひいてはマウスの行動リズムの周期(1日の長さ)を決定することを発見しました。

 時差を伴う旅行やシフト勤務,概日リズム睡眠障害(※2)など,さまざまな理由で体内時計が昼夜の変化に合わなくなると,日常生活が困難になります。したがって,概日リズム生成メカニズムの理解は,ヒトの健康の維持にとって極めて重要であり,睡眠障害,自律神経失調,メタボリックシンドロームなど,体内時計の乱れに起因する様々な疾患・健康障害の治療や予防に役立つことが期待されます。

 この研究成果は,2023 年 8 月 29 日に『PLOS Biology』のオンライン版に掲載されました。

 

 

【本研究のポイント】

  • 視交叉上核バソプレシン神経細胞は,視交叉上核の他の神経細胞の神経活動を制御することでリズムを同期させ,周期を一致させる。
  • 視交叉上核バソプレシン神経細胞が刻む概日リズムの周期により,体内時計全体,ひいては行動リズムの周期(1日の長さ)が決まる。

 

 

 

 

    図 :視交叉上核バソプレシン神経細胞により決定される体内時計の周期

     視交叉上核バソプレシン神経細胞が刻む概日リズムの周期により,視交叉上核全体の活動,ひいては行動の概日リズム周期(1日の長さ)が決まります。遺伝子操作によりバソプレシン陽性細胞のみで,時計遺伝子群にコードされる細胞時計の周期を24時間よりも長くすると,バソプレシン陽性細胞だけでなく,VIP 陽性細胞が刻む Ca2+活動リズム,マウスの行動リズム全てが,一致した長い周期を示します(中段)。この時の行動リズムの周期は,視交叉上核全体で細胞時計周期を長くした時の行動リズム周期と,ほぼ同じです(下段)。実際には正常マウスにおいても,視交叉上核の個々の神経細胞が刻むリズムの周期に数時間程度のばらつきがあるので,バソプレシン陽性細胞が体内時計全体の周期を決めるペースメーカー細胞として働き,視交叉上核全体で統一された概日リズムを生み出すと考えられます。

     

     

     

    【用語解説】

    ※1:バソプレシン
     9アミノ酸からなるペプチド。ヒトを含むほとんどの哺乳類のバソプレシンは第8番目のアミノ酸がアルギニンであることから,アルギニンバソプレシン(AVP)とも呼ばれる。抗利尿ホルモンとしての機能が良く知られており,視床下部から放出され腎臓での水の再吸収を増加させることで,利尿を妨げる働きをする。しかし視交叉上核が産生するバソプレシンは抗利尿ホルモンとしての役割は持たず,その役割の詳細は未知である。

    ※2:概日リズム睡眠障害
     体内時計に起因する覚醒と睡眠の周期やタイミングが,社会生活を送る上で望ましい時間帯からずれてしまう睡眠障害の総称。主なものに,4~5時間以上の時差時間帯のフライトにより心身不調が起こる時差型(時差ぼけ),交代勤務に起因する交代勤務型,早すぎる時間に目覚めてしまう睡眠相前進型,睡眠をとる時間が後退してしまう睡眠相後退型,周期が 24 時間からずれてしまう自由継続型がある。

     

     

     

    プレスリリースはこちら

    ジャーナル名:PLOS Biology

    研究者情報:三枝 理博

          津野 祐輔

     

     

     

     

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