高機能バイオ医薬候補創成に成功!

掲載日:2023-9-15
研究

 

 

 金沢大学ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の佐藤拓輝特任助教・松本邦夫教授,東京大学大学院理学系研究科の菅裕明教授らの共同研究グループは,新たなタンパク質工学手法を用いて,細胞増殖因子の一つ肝細胞増殖因子(HGF)と同等の活性を持ち,HGFより生体内での安定性に優れた新規タンパク質『U-body』を創成することに成功しました。

 

 細胞増殖因子と呼ばれる生理活性タンパク質は,低分子化合物では置き換えられないような高い生理活性を示し,いくつかの細胞増殖因子は組織の再生を促す医薬として利用されていますが,一般に分解されやすい性質を持ちます。そのため,医薬品として広く疾患治療に応用するためには,より化学的に安定で,同時に細胞増殖因子の活性を合わせ持つ代替分子の創成が望まれます。本研究グループは,肝細胞増殖因子(HGF)(※1)がMET受容体(※2)同士をドッキングさせることに着目し,MET受容体同士をドッキングさせる新しい分子を作ることを考えました。そのために,MET受容体に結合する十数個のアミノ酸がつながった環状ペプチドの配列を,比較的安定で小さなタンパク質であるユビキチン(※3)分子内に挿入(内挿)し,それを連結した分子『U-body』を創成しました。その結果,この『U-body』はMET受容体同士のドッキングを引き起こし,受容体を活性化しました。すなわち,安定な性質を持ちながら,同時に細胞増殖因子の活性を持つ「人工HGF」の創成です。

 HGFは,有用な治療薬のない脊髄損傷などに対する治療薬になることが期待されています。今回の研究成果では,新しい技術によって,安定性に優れた人工細胞増殖因子を創出できることが明らかにされました。この技術は,将来バイオ医薬品の新たな創薬開発プラットフォームになる可能性があり,再生医療分野への応用が期待されます。

 本研究成果は,2023年7月14日にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

 

 

【用語解説】

※1:肝細胞増殖因子(HGF)

 細胞増殖因子は生体内で、組織の再生・修復を担う一群のタンパク質。HGFはHepatocyte Growth Factor(肝細胞増殖因子)の略称。日本で発見された細胞増殖因子で,肝臓や腎臓の再生や神経組織の保護を担う生理活性タンパク質。組換えHGFは,バイオ医薬品として難治性疾患(脊髄損傷や声帯瘢痕など)に対する臨床試験が進行中。

 ※2:MET受容体

 MET受容体は受容体型チロシンキナーゼであり,肝細胞増殖因子(HGF)によってドッキング (二量体化)することで,お互いの細胞内チロシン残基をリン酸化し活性化する。MET受容体の活性化は上皮細胞や神経細胞の増殖,生存,遊走などさまざまな細胞応答を誘導し,肝臓や腎臓の再生や神経の保護に働く。

※3:ユビキチン

 76個のアミノ酸からなるタンパク質で生体内のいたるところに存在する。他のタンパク質の修飾に用いられ、タンパク質分解、DNA修復、翻訳調節、シグナル伝達などさまざまな生命現象に関わることが明らかになっている。

 

 

ジャーナル名:Angewandte Chemie International Edition

研究者情報:佐藤 拓輝

      松本 邦夫

 

 

 

 

 

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