核の門番「核膜孔複合体」が関与するp53分解機構の阻害により脳悪性腫瘍の制御に成功!

掲載日:2023-9-15
研究

 

 

 金沢大学ナノ生命科学研究所/新学術創成研究機構の羽澤勝治准教授,ナノ生命科学研究所のリチャード・ウォング教授,医薬保健研究域医学系脳神経外科学の中田光俊教授らの研究グループは,脳悪性腫瘍である膠芽腫(こうがしゅ)(※1)において高い発現を示している核膜孔複合体(NPCs)(※2)の特定因子を抑制することにより,がん抑制タンパク質 p53(※3)を正常化し,膠芽腫を制御できることを発見しました。

 NPCs は,細胞核を出入りする全ての分子の輸送を制御する小さな孔(門)を形成し,細胞のさまざまな生命活動を支えています。本研究では,膠芽腫において,がん抑制遺伝子 p53 の発現を確実に抑え込む新たな機構が存在することを発見しました。膠芽腫細胞では,NPCsによる選択的な核外搬出システムとタンパク質分解経路を組み合わせた,高次タンパク質分解機構が確立され,効率よく p53 が分解されていることを明らかにしました。この p53 分解機構の制御により,膠芽腫の進展が阻害されました。
 これらの知見は将来,膠芽腫における新たな治療法の確立に役立つことが期待されます。

 本研究成果は,2023 年 8 月 7 日 10 時(米国東部時間)に米国科学誌『Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。

 

     

    図1:膠芽腫における核外搬出システムを活用した p53 分解機構XPO1 と NPCs による選択的な核外搬出システムとタンパク質分解装置 26S プロテアソームを組み合わせた,高次タンパク質分解機構。MDM2 により分解シグナルが付加された p53 を確実に分解するために,膠芽腫細胞株は核外搬出機構を活用し,NPCs に結合した 26S プロテアソームへ XPO1 が選択的に運搬するシステムを確立している。

     

     

     

     

     

    【用語解説】

    ※1: 膠芽腫
     膠芽腫は,中枢神経系に発生する悪性腫瘍です。この腫瘍は,脳内に進展し,周囲の健常な脳組織を圧迫または破壊します。脳腫瘍の中でも最も一般的なものの一つであり,症状は腫瘍の位置とサイズによって異なり,頭痛,吐き気,けいれんなどの神経症状が現れることがあります。膠芽腫の治療には,手術による腫瘍の切除,放射線療法,化学療法などが一般的に用いられますが,完全な治癒は難しいと考えられています。治療を行っても,膠芽腫は再発する可能性が高く,予後が悪いことが知られています。そのため,研究者や医療専門家は新しい治療法の開発に取り組んでいます。

    ※2:核膜孔複合体
     核膜孔複合体(かくまくこうふくごうたい,英: Nuclear Pore Complexes, NPCs)は,細胞の核膜に存在するタンパク質複合体です。NPCs は,細胞核と細胞質の間で物質の移動を可能にする重要な役割を果たしています。核で機能するタンパク質や mRNA などの分子が核から細胞質へ移動したり,逆に細胞質から核へ移動したりするのに利用されます。このように NPCs が存在することで,細胞核と細胞質の間で情報や物質の交換がスムーズに行われ,細胞の正常な機能を維持することができます。NPCs の形態と機能は,多くの生物種で高度に保存されており,その不具合が細胞内の情報伝達に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

    ※3:p53
     p53 (Tumor Protein P53)は DNA に結合し,DNA 修復や細胞死を制御する遺伝子を活性化する転写因子です。TP53 は DNA に異常がある細胞を除去することにより,突然変異が次世代に受け継がれることを防ぐため,「ゲノムの守護神」としても知られています。

     

     

    プレスリリースはこちら

    ジャーナル名:Cell Reports

    研究者情報:中田 光俊

          Richard Wong (リチャード・ウォング)

     

     

     

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