ヒストンシャペロンとヒストンの複合体構造を統合的な相関構造解析法により初めて解明

掲載日:2023-7-24
研究

 

 

 横浜市立大学大学院生命医科学研究科の大友秀明特任助教,山根努特任助教(現理化学研究所上級研究員),小田隆研究員(現J-PARC研究員),栗田順一特任助教,津中康央特任助教,池口満徳教授,西村善文特任教授は,金沢大学ナノ生命科学研究所の古寺哲幸教授との共同研究で,クロマチンの基本構造であるヌクレオソームの解離会合に関与するヒストンシャペロンとヒストンの動的な結合構造を統合的な相関構造解析法により初めて解明しました。今後,核内タンパク質の原子レベルでの機能解明による新たな治療薬の開発などへの応用が期待されます。

 本研究は,『Journal of Molecular Biology』に掲載されました(2023年6月26日オンライン)。

 

研究成果のポイント

  • 統合的な相関構造解析法として,核磁気共鳴(NMR)(※1),X線小角散乱(SAXS)(※2),多角度光散乱(MALS)(※3),原子間力顕微鏡(AFM)(※4),分子動力学(MD)(※5)計算と生化学実験を用いた。
  • クロマチンの基本構造であるヌクレオソームの構築や解離に関与するヒストンシャペロン(※6)NAP1とヒストンH2A-H2Bの動的な複合体構造を解明。
  • NAP1はワイヤ付きヘッドホン構造の凹部でヒストンH2A-H2Bと結合し,さらにもう一つのH2A-H2Bは2本のワイヤで動的に結合。
  • 動的に動くワイヤがヌクレオソーム中のH2A-H2Bの結合保持と介助に必要。

     

     

     

     

    図:NMR,SAXS,MALS,AFM,MD計算と生化学実験など複数の解析手法を組み合わせた統合的相関構造解析法の概要図 

     

     

     

    【用語解説】

    ※1 NMR:
     強い磁場中で特定の原子核スピンの向きが揃えられた化合物やタンパク質などに対し,ラジオ波を照射して核磁気共鳴させた後,核スピンが元の安定な状態に戻る際に出す信号を観測して,原子の配置などを解析する装置。分子量が30KDaを超えるような大きなタンパク質では,水溶液中のタンパク質の動きが遅くなりNMRの観測は困難になるが,巨大タンパク質中でもふらふらと揺らいでいるN末やC末の部位は小分子の動きと同じく速いので原子レベルでの同定が可能である。

    ※2    X線小角散乱(SAXS):
     タンパク質水溶液などの試料にX線を照射し,得られる散乱X線の角度分布から試料分子の形状を解析する方法。NMRのような分子量の制限がなく,X線結晶構造解析のように目的タンパク質を結晶化する必要がない反面,分解能が低い欠点があるため,NMRやMDなど原子分解能での情報と合わせることで有効な解析が可能。

    ※3    多角度光散乱(MALS):
     タンパク質水溶液などの試料に光を照射し,得られる散乱光の角度分布から試料分子の分子量を決定する方法。

    ※4    原子間力顕微鏡(AFM):
     原子間力顕微鏡は,レコードプレーヤーの針がレコード盤の表面の形状をなぞるように,探針(プローブ)と試料間の相互作用を2次元に走査し,試料の起伏の画像を取得する顕微鏡。生体分子が機能する水溶液中であっても,分子の形状をナノメートルの空間分解能で観察することができる特徴を持つ。

    ※5    分子動力学(MD)計算:
     計算機シミュレーションの手法の一つ。計算機上に水分子やイオンなども含めた系を構築してタンパク質分子の生体内部における様子を模倣し,その全原子間に働く相互作用を考慮してニュートンの運動方程式を数値的に解くことをくりかえすことにより,生物の体温程度でのナノ秒~ミリ秒の時間スケールの生体内での蛋白質などの分子の挙動をシミュレーションする。本研究で用いたhNAP1とH2A-H2Bの複合体のMDシミュレーションでは,約100万原子程度の大きさの系について,100ナノ秒(0.1ミリ秒)の計算を行っている。

    ※6  ヒストンシャペロン:
     ヒストン分子に結合しヌクレオソームへヒストンを運搬し再構成する時の介助タンパク質。DNA合成やRNA合成の時にはDNA二重らせんはほどかれてヌクレオソームからヒストンが解離し,さらに合成終了時にはヒストンは再結合しヌクレオソームが再構成される時に,ヒストンシャペロンは介助役を果たす。ヒストンシャペロンとしてはここで取り上げたNAP1以外にもFACTがあり,FACTのサブユニットSpt16タンパク質のC末天然変性領域とヌクレオソーム中でのヒストンH3のN末の天然変性領域との相関構造やH2A-H2Bの相関構造に関してはNMR法等を用いて既に報告されている。

     

     

     

    プレスリリースはこちら

    ジャーナル名:Journal of Molecular Biology

    研究者情報:古寺 哲幸

     

     

     

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