二酸化炭素の還元触媒について,構造と電気化学特性の関係をナノスケールで解明 ~副反応を抑えた二酸化炭素還元のための触媒開発に貢献~

掲載日:2023-6-19
研究

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の河邉 佑典 博士課程後期学生,同大学院工学研究科/国立大学法人金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の高橋 康史 教授らの研究グループは,筑波大学の伊藤 良一 准教授,堀 優太 助教との共同研究で,触媒表面で生じる二酸化炭素還元反応を,電気化学的にイメージングする技術を確立し,水素ガスなどの副生成物を抑え,化成品を効率的に生成する電解合成触媒の反応メカニズムの理解に成功しました。

 再生可能エネルギー(※1)を活用した電気化学的な二酸化炭素の還元は,二酸化炭素を資源として化成品を電解合成できる有力なカーボンニュートラル(※2)技術の一つです。その一方で,化成品を電解合成できる触媒では,水素ガスなどの副生成物が生じてしまうという課題を抱えています。本研究は,効率的な化成品の電解合成に向けて,副生成物を抑えられる電解合成触媒の特徴の理解を目指しました。走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)(※3)を用いて触媒の幾何学構造と電気化学データを同時マッピング計測することで,幾何学構造と電気化学データが一対一で対応付けを実現させました。

 さらに,第一原理計算(※4)により触媒活性サイトにおける反応メカニズムをシミュレーションすることで,二酸化炭素の還元に必要な特徴を明らかにしました。

 本研究成果は,2023 年 6 月 5 日付アメリカ化学雑誌『ACS Nano』に掲載されました。

 

 

 

図:(a) SECCMによる電気化学イメージングの計測原理図,(b)SnS2ナノシートと(c)MoS2ナノシートの還元電流のイメージ,(d)SnS2ナノシートのエッジとテラスでの触媒活性評価

 

 

 

【用語解説】

※1:エネルギー
 物質が持っている仕事をする能力の総称。化学反応においては,各反応中間体の安定性や平衡条件などを表す指標となる。

※2:カーボンニュートラル
 温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすること。 

※3:走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)
 電解液を充填したナノピペットを用いて試料表面にナノスケールの電気化学セルを形成し,ナノピペットと試料との間にメニスカス状の電気化学セルを形成し,局所的な電気化学計測を行う。ナノピペットを走査することで,触媒活性サイトの電気化学イメージを取得することができる。SECCM は Scanning electrochemical cell microscopy の略。 

※4:第一原理計算
 量子力学の基礎方程式であるシュレーディンガー方程式を近似的に解くことで,物質の安定な構造やエネルギーを求める手法。

 

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:ACS Nano

研究者情報:高橋 康史

 

 

 

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