海洋深層水でイカを飼育すると身が痩せないことを科学的に証明

掲載日:2023-6-1
研究

 

 金沢大学環日本海域研究センターの鈴木信雄教授と理工研究域生命理工学系/能登海洋水産センターの松原創教授,島根大学の吉田真明准教授,公立小松大学の平山順教授を中心とした共同研究グループは,能登の海洋深層水(※1)で飼育したスルメイカ(Todarodes pacificus)(図 1)では,表層の海水で飼育したスルメイカと比べて,肝臓でのコレステロール代謝が抑制され(図 2 と 3),体液を調節するホルモン(図 4)などの発現が変化することにより,体重の減少率が抑制されることを世界で初めて証明しました。

 これまで経験的に,海洋深層水でイカを飼育すると身が痩せずに長期間飼育できると言われてきました。本研究は,このことを初めて科学的に証明したことになります。イカやタコの脳は大きく,知能が高いことはよく知られています。その脳で発現している遺伝子を調べた結果,表層の海水と比べて深層水で発現量が高い 4 種類の遺伝子もスルメイカで初めて見出すことができました(図 4)。その遺伝子の中で,ヒトの体液調節に関与しているホルモンであるバソプレシン(※2)の遺伝子発現が高まり,スルメイカの血液中の塩濃度も統計学的に有意に高くなること(図 5)も明らかにしました。

 以上の結果は,スルメイカの飼育に能登の海洋深層水が有効であることを証明したことになり,スルメイカの畜養や活魚輸送など,スルメイカに関する水産業に大きく貢献できます。

 本研究成果は,2023 年 5 月 10 日にイギリスの国際学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図 1:スルメイカ(Todarodes pacificus)の写真
 頭の上の腕(足)があるので,頭足類という。

 

図2:血液中の成分の分析
36時間の絶食により,総コレステロール及び遊離コレステロールの値は,表層水飼育で有意に低下した。* P < 0.05

 

 

図 3:スルメイカの血液中の酵素活性の変化
肝臓のマーカーであるアラニンアミノ基転移酵素活性が能登深層水でスルメイカを
飼育すると低下していることがわかった。** P < 0.01

 

 

 

図4:海洋深層水と表層水で飼育したスルメイカの脳において,能登海洋深層水で飼育した場合に発現量が高くなる遺伝子のアミノ酸配列
本研究において,スルメイカで初めてこれら4種類の配列を決定した。

 

 

図5:表層水及び能登の深層水で飼育したスルメイカの血液中の塩濃度の変化
* P < 0.05; ** P < 0.01; *** P < 0.001

 

 

 

【用語解説】

※1:海洋深層水
 海洋深層水とは,水深 200 m 以深に存在する深海の海水のことを示し,低温状態で,豊富なミネラルや無機栄養分を含み,細菌数が少ないという特徴を持つ。能登海洋深層水は,320 m の深海からの海水を汲み上げている。

※2:バソプレシン
 多様な動物に存在するペプチドホルモンである。特にヒトでは,腎臓における水の再吸収を増加させることで利尿を抑制する。また,血管の収縮を促進し血圧を上昇させる機能を持つ。この背景より,抗利尿ホルモンまたは血圧上昇ホルモンとも呼ばれる。本研究において,スルメイカのバソプレシンの構造を初めて明らかにした。この同定したバソプレシンは,スルメイカが属する開眼類の英名(Oegopsids)を踏まえて,Oegopressin(オエゴプレシン)と命名した。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Scientific Reports

研究者情報:鈴木 信雄

 

 

 

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