ズワイガニの最終脱皮前後で生じる生理学的な変化の一端を明らかに!

掲載日:2023-5-23
研究

 金沢大学環日本海域環境研究センター臨海実験施設の豊田賢治特任助教,水産研究・教育機構の山本岳男主任研究員と馬久地みゆき主任研究員,基礎生物学研究所の森友子技術班長と重信秀治教授,東京理科大学の宮川信一准教授,高知大学の井原賢准教授,神奈川大学の大平剛教授らによる共同研究グループは,ズワイガニ(Chionoecetes opilio)のオスの最終脱皮前後に見られる変化を生理学的に明らかにしました。

 エビやカニなどの甲殻類は一般に生涯にわたり脱皮を繰り返し,それに伴い体サイズの増大や繁殖を行っています。しかし,ズワイガニの仲間は生涯で脱皮する回数が決まっており,オスは稚ガニから 10-12 回,メスは 10 回脱皮することで繁殖の主群となります。オスは最終脱皮をすると鉗脚(ハサミ脚)が肥大化し(図 1),行動が攻撃的になることが知られていますが,そのメカニズムの大部分は未解明でした。そこで本研究ではファルネセン酸メチル(methyl farnesoate: MF)というホルモン分子に着目し,最終脱皮前後のオスのズワイガニの血中 MF 濃度を比較したところ,最終脱皮後に MF 濃度が増加することが分かりました(図 2)。また,MF の生合成・分泌を制御している眼柄神経節(図 3)の網羅的な遺伝子発現解析から,最終脱皮後のオスでは MF 分解酵素遺伝子などの発現が抑制されることで血中 MF 濃度が高くなっていることが示唆されました。

 さらに,甲殻類と近縁の昆虫類において行動様式の変容を促すといわれる生体アミン関連経路が最終脱皮後のオスで活性化されていました。この結果より,生体アミン類が最終脱皮後のオスが攻撃的になる行動変容に関わっている可能性が推察されました。

 これらの知見から,MF や生体アミン類はズワイガニのオスの生殖行動を制御していることが示唆されました。ズワイガニは日本国内のみならず世界的に重要な水産資源であり,その繁殖生態の理解は,資源管理を遂行する上で重要な知見であるだけではなく,効率的な増養殖技術の開発にも役立てられます。本成果を基に最終脱皮を人為的に制御できる技術が開発されれば,水産価値の高い最終脱皮後のオスの効率的な生産方法の確立に寄与できると考えられます。

 本研究成果は,2023 年 5 月 4 日に国際学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。

 

図 1:最終脱皮前後のオスのズワイガニ
最終脱皮をすると鉗脚高(矢印部分)が増大する。

 

 

図 2:最終脱皮前後のオスの血中ファルネセン酸メチル(MF)濃度の比較
最終脱皮後(右)の方が最終脱皮前より MF 濃度が上昇している。

 

 

図 3:眼柄と眼柄神経節
ズワイガニを腹側から見て複眼を示す(左)。摘出した複眼と眼柄を解剖した図(右)。
黒点線が眼柄神経節を,赤点線がサイナス腺である。

 

 

 

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ジャーナル名:Scientific Reports

研究者情報:豊田 賢治

 

 

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