ラジカルを活用した新たなケージド化法の開発 ―アセチルコリン濃度の時空間制御に成功―

掲載日:2023-5-23
研究

 京都大学化学研究所の大宮寛久教授,同大学大学院薬学研究科博士後期課程1年の中村梨香子さん,金沢大学ナノ生命科学研究所の新井敏准教授,同大学医薬保健研究域薬学系の隅田有人助教,同大学大学院新学術創成研究科博士後期課程3年の山崎健さんらの共同研究グループは,これまで実現困難であったアセチルコリン(※1)をケージド化(※2)する手法を開発し,生細胞条件およびハエの脳を用いたex vivo条件(※3)で自在にアセチルコリン濃度を制御することに成功しました。

 ケージド化合物は,生理活性化合物に光で除去可能なユニット(Photoactivatable Protecting Group = PPG)(※4)の連結により一時的に不活化した分子で,まさにカゴ入れられたような状態です。光を照射することで,生理活性化合物が作用する時空間を制御できるため,この技術は細胞機能発現の機構解明に幅広く利用されています。一方で,ケージド化合物を作る際に汎用されるPPGは,その連結に水酸基(OH)やカルボキシル基(CO2H)あるいはアミノ基(NH)といった官能基が必要となります。つまり分子構造にこれらを持たない生理活性化合物はケージド化できないため,構造に制限がありました。

 本研究では,可視光により炭素ホウ素結合が切断されて炭素ラジカル(※5)が生じる有機ホウ素化合物を活用することで,分子骨格上の炭素を起点としたケージド化法を開発しました。炭素は全ての有機化合物に含まれるため,従来の構造制限を取り払うと期待されます。

 本成果は,2023年5月4日(現地時刻)にアメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

本研究の概要図:ラジカルケージド法によるアセチルコリン濃度の時空間制御

 

【用語解説】

※1:アセチルコリン
 神経伝達物質の一種であり,情報伝達や筋肉制御に関与する。神経細胞の終末から放出され,シナプスを介して隣接する神経細胞との間で信号を伝達する。

※2:ケージド化 
 生理活性化合物を光で分解可能な保護基で保護し,一時的に生理活性を不活化する手法。

※3:ex vivo
 生体から直接採取された組織を用いた試験や実験。

※4:PPG
 P
hotoactivatable Protecting Groupの略であり,光ケージドに用いられる特定の波長によって切断・除去が可能なユニット。

※5: 炭素ラジカル
 炭素原⼦上に不対電⼦を有する化学種。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Journal of the American Chemical Society

研究者情報:新井 敏

 

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