バクテリアから植物に侵入してきた遺伝子が 植物の陸上進出に必要だった水通導組織を作ることを可能にした 〜体の厚みを作る細胞分裂方向を操る仕組みの発見〜

掲載日:2023-1-25
研究

約4億7千年前に淡水域から陸上へ進出する前の植物は、細胞が縦に繋がった糸状の形や、細胞が平面上に1層に並んだ形をしていたと考えられています。一方、現在陸上で生きている植物(陸上植物)は、細胞が何層も重なった厚みや太さのある体をしています。この体の厚みは、並層分裂(※1)と呼ばれる細胞分裂によって生み出されます。この分裂により陸上植物は、体中に水を運ぶ管(水通導組織)を作り出したり体を支えたりすることができ、乾燥した陸上環境でも生活できたりするようになりました。従って、並層分裂が植物の陸上進出の原動力の一つとなったと考えられますが、植物の進化の過程で、どのような仕組みによって並層分裂がもたらされたのかは明らかになっていませんでした。

金沢大学理工研究域生命理工学系の小藤累美子助教、藤原彩花元大学院生らと、疾患モデル総合研究センターの西山智明助教、基礎生物学研究所、大阪大学大学院理学研究科、米国デューク大学らによる国際共同研究チームは、コケ植物の一つヒメツリガネゴケを使って、土壌中のバクテリアから陸上植物の祖先のゲノムDNAに侵入したGRASファミリー(※2)のメンバーである3種類の遺伝子が、細胞ごとの分裂方向を巧みに操ることで特定の細胞のみで並層分裂を起こさせ、植物の陸上進出を可能にした水通導組織を作り出すことを明らかにしました。

 本研究成果は2023年1月21日に米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』に掲載されました。
 

【研究の背景】

動物も植物も、細胞がどちらの方向に分裂するかによって、体の形作りが変わってきます。そして、その分裂方向の変化が動植物の体の進化にも影響を及ぼしてきました。植物は約4億7千年前に浅い淡水域から陸上へ進出したと考えられていますが、体の厚みを作り出すことが陸上化の鍵になったと考えられています(図1)。例えば、体中に水を運ぶ水通導組織が作られることで、体を支えたり乾燥した環境でも生活できたりするようになりました。この構造は、細胞層を増やすことで体に厚みをつけたり、太くなったりすることができる並層分裂と呼ばれる細胞分裂によって作られます。言い換えれば、並層分裂をいつ、どの細胞で引き起こすのか、その仕組みを巧みに操ることで、植物は様々な組織や器官を作り出し、複雑な体作りを可能にしています。しかしながら、植物の陸上進出の原動力となった並層分裂の仕組みが、植物の進化の過程でいつ、どのような遺伝子によってもたらされたのかは明らかになっていませんでした。
 


図1: 植物の陸上進出

 

【用語解説】

※1:並層分裂
植物細胞は固い細胞壁に囲まれて動くことができないので、どちらに分裂するかがその後の体作りを決めます。体の表面に平行な分裂を並層分裂といいます。並層分裂は、体に厚みをつけたり、太くなったりする役割とともに、水を通す管である水通導組織(導管など)を体の中に作る役割を持っています。植物が水中から陸上に進出するには、重力や陸上の乾燥した環境で生きられるように、体を支え、水通導組織が進化することが鍵になったと考えられています。つまり、並層分裂の進化が植物の陸上化を可能にしたと考えられます。

※2:GRASファミリー
遺伝子の働きを調節する植物特有の一群の転写因子の総称。複数のグループ(サブファミリー)に分かれており、被子植物では、植物の形作りや植物ホルモンの応答などに働くことが知られています。

 

プレスリリースはこちら

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

研究者情報:小藤 累美子

研究者情報:西山 智明

 

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