腸内細菌が作るフェネチルアミンが末梢セロトニン産生を促進
骨粗しょう症や過敏性腸症候群の治療法開発への応用に期待

掲載日:2022-10-24
研究

金沢大学新学術創成研究機構の岡本成史教授,近畿大学生物理工学部食品安全工学科の栗原新准教授,群馬大学食健康科学教育研究センターの杉山友太助教を中心とする研究グループは,腸内細菌により作り出された芳香族アミン※1の一種である「フェネチルアミン※2」という化合物が,宿主の腸内でセロトニンの産出を促進していることを明らかにしました。本研究成果は,セロトニンの過剰産出が原因で発症する,骨粗しょう症や過敏性腸症候群の新たな治療法開発に応用できることが期待されます。

腸内細菌は,宿主が摂取した成分を分解・変換し,多種多様な物質を産み出しています。近年,腸内細菌が作り出す物質(腸内細菌の代謝産物)が,宿主の様々な健康状態に影響することが明らかになってきました。その腸内細菌が作り出す物質のうち,芳香族アミンは少量でも神経伝達に影響を与える化合物で,肉・豆などのタンパク質に材料として含まれる芳香族アミノ酸※3を,腸内細菌が変換することで腸内に作り出されます。これまでに,腸内細菌が作り出す芳香族アミンの量と種類を,遺伝子レベルで解析した研究はほとんどありませんでした。さらに,芳香族アミンが宿主に与える影響についても未解明な点が多くあります。

本研究では,末梢セロトニン※4が関連する骨粗しょう症や過敏性腸症候群をはじめとした疾患の治療・予防において,腸内細菌の芳香族アミノ酸脱炭酸酵素が標的となることが示されました。今後は胃や小腸などで吸収されずに大腸に届き,腸内細菌の芳香族アミノ酸脱炭酸酵素を特異的に阻害する薬剤を開発することで,骨粗しょう症や過敏性腸症候群の治療あるいは予防法の開発に繋げたいと考えています。

本件に関する論文は,令和4年(2022年)10月11日(火)に,英国の腸内細菌叢・消化管関連学術誌 "Gut Microbes" にオンライン掲載されました。

 



図1.腸内細菌のイメージ図

 

 


図2.論文概要図

 

【用語説明】

※1 芳香族アミン
芳香族アミノ酸が脱炭酸されて生じる物質で,フェネチルアミンのほか,チラミン,トリプタミン,ドーパミンなどが含まれる。これらは生理活性アミンと呼ばれ,生体内で様々な役割を果たしている。

※2 フェネチルアミン
食品に含まれるアミノ酸であるフェニルアラニンが腸内細菌によって脱炭酸されて生じる物質で芳香族アミンの一種。発酵食品等に多量に含まれる。芳香族アミンは,低濃度でも神経伝達に大きな影響を与えることが知られている。

※3 芳香族アミノ酸
化学構造内に芳香環を有するアミノ酸で,フェニルアラニン,チロシン,トリプトファン,ドーパなどが挙げられる。

※4 抹消セロトニン
神経伝達物質の一種で脳などの中枢以外に分布するものを,「幸せホルモン」として知られている中枢セロトニンと区別して末梢セロトニンと呼ぶ。体内のセロトニンの95%以上は末梢セロトニンであり,腸管蠕動運動や破骨細胞分化などを促進する。

 

プレスリリースはこちら

Gut Microbes

研究者情報:岡本 成史

 

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