甲殻類に含まれるナノ結晶を分子レベルで観察することに成功!

掲載日:2022-8-4
研究

金沢大学ナノ生命科学研究所のアイハン・ユルトセベル特任助教と福間剛士教授,ナノ生命科学研究所の海外PIで,カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のマーク・マクラクラン教授,同フィンランド・アールト大学のアダム・フォスター教授らによる共同研究グループは,甲殻類に由来するキチン(※1)のナノ結晶を3次元原子間力顕微鏡(AFM)(※2)により分子レベルで観察することに成功しました。

再生可能な天然資源の一つであるキチンは,その強度や毒性の少なさから,ナノ材料としての利用がさまざまな分野で模索されています。また,その性質のさらなる向上や実材料へ応用を図るためには,その表面構造や水との反応を分子レベルで明らかにすることが望まれていますが,従来はこれらを直接解析できる計測技術がなく,その構造の詳細はよく知られていませんでした。

本研究では,金沢大学のグループがこれまでに開発した,物質の表面構造を分子スケールで観察できるAFMを用いて,エビの殻から得られたキチンのナノ結晶を水の中で観察し,その表面を分子レベルで可視化することに成功しました。さらに,物質/水の界面構造を空間的に観察できる3次元AFMにより,キチンナノ結晶の表面と水が接する界面を観察し,水分子の分布が表面の凹凸に沿って空間的に並んだ層状の構造を形成する様子を捉えました。この構造を詳細に解析するため,キチンナノ結晶の周りに水分子を配置したモデルを作成しシミュレーションしたところ,水分子がキチンの表面に強く引き寄せられ,さらにこれらが化学的に結合することも明らかとなりました。その一方で,キチンナノ結晶表面には水分子がない部分も存在しており,キチンには水分子と結合する分子と結合しない分子の2種類が存在することも分かりました。

これらの知見は,キチンナノ結晶の分子レベルの構造に関する重要な手がかりとなり,将来的にキチンを用いたナノ材料の開発に活用されると期待されます

本研究成果は,2022年6月9日に国際学術誌『Small Methods』のオンライン版に掲載されました。

【参考図】

図1. (A)基板上に固定化されたキチンナノ結晶の3次元AFM観察を示す模式図。探針を水平方向と垂直方向に同時に動かしつつ,空間的に観察する。(B)AFMで見たキチンナノ結晶の表面。結晶表面の分子レベルの凹凸を捉えた。(C) キチン/水界面の3次元AFM画像。(D-F) キチンナノ結晶の長鎖方向に撮影したキチン/水界面の垂直2次元断面図。赤,白,青の楕円は,整然と並んだ水分子分布を示している。青と赤の楕円で示された領域は,水分子がキチンの水素原子または酸素原子との水素結合によって安定化されている領域に対応し,これらの領域の間のコントラストが暗い領域は,水分子がキチン表面と水素結合を作らない領域に対応している。

 

【用語解説】
 ※1 キチン
 キチン甲殻類の殻や菌類の外壁に含まれる天然由来の高分子。これらの生物の外被の強度を高める役割を担っている。近年,キチンはナノマテリアルとして工学や医学の幅広い分野において注目を集めており,補強材,水質浄化,薬物送達などへの応用に向けて研究開発が多く行われている。このキチンからナノマテリアルを作るためには,酵素を使って化学的に構造を変える必要があり,この反応の多くは水環境で行われる。そのため,キチンの構造や水との相互作用を理解することは,この分野の研究において重要である。

※2 原子間力顕微鏡(AFM)
 先端が非常に鋭く尖った探針で観察対象をなぞることにより,その探針の動きから表面の凹凸を反映した画像を取得する顕微鏡。真空中・大気中・水中などのありとあらゆる環境下において原子・分子レベルの構造を捉えることが可能である。一方で,従来のAFMは観察対象の表面しか見ることができなかった。この問題を克服するため,金沢大学の福間剛士教授らは,探針を水平方向だけでなく垂直方向にも動かすことで,観察対象の表面だけでなく水と接している界面の情報を空間的に計測できる3次元AFMを開発した。

詳細はこちら

Small Methods

研究者情報:YURTSEVER AYHAN
       福間 剛士

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