天然ゴム合成コア酵素の試験管内再構成に成功
-AI を利用し酵素構造を予測-

掲載日:2022-4-15
研究

金沢大学理工研究域物質化学系 山下 哲准教授,埼玉大学大学院理工学研究科,住友ゴム工業株式会社,東北大学大学院工学研究科らの共同研究グループは,独自の膜タンパク質再構成システムの構築により,天然ゴム(※1)を生産する植物パラゴムノキ(※2)およびグアユール(※3)に由来する特定の2種類のタンパク質因子の組合せにより,天然ゴムの基本骨格となるポリイソプレンを合成する酵素の活性を試験管内で再現することに成功しました。

 天然ゴムは,タイヤ製造をはじめとする様々な産業用途に重要な植物由来の資源であることから,長年に渡りその生合成に関する研究が進められてきました。これまでにも,上記の共同研究グループは,パラゴムノキ由来のゴム粒子を材料として,世界に先駆けて天然ゴム生合成装置の構成因子の同定を進めて来ましたが,コア酵素サブユニットの完全な触媒機能の証明には至っていませんでした。今回の報告では,これまで培ってきた膜タンパク質合成系に平面膜複合体である「ナノディスク(※4)」を利用することにより,完全な試験管内での天然ゴム合成コア酵素の再構成に至りました。さらに,最近開発されたAI技術に基づくタンパク質高次構造予測システムを採り入れることにより,個々のサブユニット同士の会合様式を予測するに至ると同時に,それぞれのサブユニットが独自の膜結合領域を有すること,この膜結合領域の機能欠損が酵素機能喪失を招くことなども明らかにしました。

本研究成果は,2022年3月8日(英国時間)に,英国科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

図1. タンパク質-ナノディスク複合体の精製と酵素活性測定.

A. ナノディスクを用いた膜タンパク質再構成系の概要。 B. 翻訳反応液と精製後のサンプルに含まれるタンパク質泳動の結果。コムギ胚芽抽出液の内在性タンパク質はほとんど除去されており,夾雑物の少ない目的タンパク質-ナノディスク複合体の精製が可能になりました。 C. 酵素活性試験の結果。HRT1とHRBPを共発現させたナノディスクでのみ,基質であるイソプレンの重合反応が生じていることが分かりました。 D. 酵素活性試験によって生じた反応生成物の解析。イソプレン単位 (炭素数5) ごとのラダー状の反応生成物が検出され,イソプレンの重合反応が生じていることが確認できました。鎖長としては,炭素数75程度までのポリイソプレンが検出されました。

図2.グアユールタンパク質の再構成と酵素活性測定.

A. 翻訳反応液と精製後のサンプルに含まれるタンパク質泳動の結果。 B. 酵素活性試験の結果。PaCPT1-3とPaCBPを共発現させたナノディスクでのみ,基質であるイソプレンの重合反応 が生じていることが分かりました。 C. 酵素活性試験によって生じた反応生成物の解析。

 

【用語解説】
 ※1 天然ゴム
cis-1,4-polyisopreneを主骨格とした天然炭化水素ポリマー。パラゴムノキでは、天然ゴムはラテックスに含まれるゴム粒子という構造体の内部に貯蔵されている。

※2 パラゴムノキ(学名Hevea brasiliensis)
ブラジル原産のトウダイグサ科の常緑樹で、幹を傷つけることにより得られる樹液(ラテックス)から天然ゴムの原料が得られる。

※3 グアユール(学名Parthenium argentatum)
アメリカ合衆国南西部とメキシコ北部の乾燥地帯に自生するキク科の多年生低木で、天然ゴム生産の代替植物として注目を集めている。

※4 ナノディスク
ヒトのアポリポタンパク(apo)A-Iの一部の配列を欠失させたタンパク質を利用した円盤状の脂質膜構造体であり、近年、膜タンパク質の構造解析に頻繁に利用されるようになった。

 

詳しくはこちら(PDF)

・ Scientific Reports

・ 研究者情報:山下 哲

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