自然免疫に重要なKIR遺伝子領域の構造を解明

掲載日:2022-3-24
研究

金沢大学医薬保健研究域医学系の細道一善准教授,田嶋敦教授と,大阪大学,理化学研究所,国立遺伝学研究所,東京大学らの研究グループは,キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)遺伝子領域の構造を高精度に解明し,ヒト疾患への関わりを明らかにしました(図1)。

KIR遺伝子は,ナチュラルキラー(NK)細胞(※1)表面に発現しHLA(※2)分子を認識してその機能を調節していることから,ヒトの自然免疫応答や移植後拒絶反応に重要な役割を果たすと考えられています。しかしその重要性にも関わらず,KIR遺伝子領域は高度な多様性を持つことから,詳細な解析が困難で集団中での構造多様性の全貌が謎のままでした。

今回研究グループは,KIR遺伝子構造に特化した独自の高深度シークエンス技術の開発と,機械学習や深層学習の手法を応用した遺伝子コピー数(※3)推定・遺伝的変異・アレル組み合わせを網羅する解析アルゴリズムの実装により,日本人集団1,173名の高精度タイピングに成功しました。さらに,より多くのサンプルを対象としたゲノムデータにおいても,コンピューター上で簡便にKIR遺伝子配列の個人差(KIR遺伝子型)を特定するためにインピュテーション法(※4)を実装し,さまざまな疾患やヒト形質とKIR遺伝子型との網羅的関連解析が可能になりました。バイオバンク・ジャパン(※5)のゲノム・表現型情報を対象に解析を実施したところ,これまで報告されてきたKIR遺伝子と自己免疫疾患との関わりは想定されていたより弱いことが示唆されました。

研究グループは本研究で得られた独自の解析アルゴリズムと日本人集団内でのKIR遺伝子型参照配列パネルを公開し,インピュテーション法の実装と合わせて今後さらに多くのデータへ応用する道を開き,免疫疾患や造血幹細胞移植の成績との関連を明らかにすることが期待されます。

本研究成果は,2022 年3月10日に米国科学誌『Cell Genomics』に公開されました。

 

 

図.

高深度シークエンス技術と集学的数理解析手法の開発により日本人集団1,173 名で高精度にKIR遺伝子構造を解明。

 

 

 

 

【用語解説】

※1 ナチュラルキラー(NK)細胞
ウイルスに対する免疫防御反応や腫瘍免疫に代表される自然免疫機能をになう免疫担当細胞の一種で,細胞傷害性リンパ球に分類される。細胞表面にHLAクラスI分子を認識する受容体群を発現しており,その一つがKIRファミリーである。

※2 Human leukocyte antigen(HLA)
ヒトの体のさまざまな細胞の表面に発現し,生体内における自己と非自己の認識や外来性の病原菌に対する免疫反応を司り,多彩な表現型の個人差を規定している。主に細胞内のタンパク質を提示するクラスIと外来由来のタンパク質を提示するクラスIIの二種類に分類され,KIR遺伝子はクラスI HLA分子を認識している。

※3 遺伝子コピー数
通常ヒトの細胞内の遺伝子は父親由来と母親由来の2対(2コピー)であるが,KIRをはじめとする複雑な遺伝子領域では遺伝子の重複や欠失により遺伝子が必ずしも2コピーとはならないことが知られている。たとえばKIR遺伝子領域では遺伝子により0コピーから最大4コピーまでの幅がある。そのコピー数のこと。

※4 インピュテーション法
KIR遺伝子型など複雑な遺伝的多型を,参照配列となる周囲の一塩基多型(SNP)と連鎖不平衡関係を用い,隠れマルコフモデルなどの数理モデルを用いて確率的に推測する遺伝統計学手法のこと。

※5 バイオバンク・ジャパン
日本人集団約27万人を対象とした生体試料バイオバンクで,東京大学医科学研究所内に設置されている。ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報と共に収集し,研究者へのデータの公開や分譲を行っている。

 

詳しくはこちら

Cell Genomics

研究者情報:細道 一善

 

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