脳の進化の鍵となるグリア細胞の増加の仕組みを発見!

掲載日:2022-3-15
研究

金沢大学医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授と,新明洋平准教授,堀修教授,田嶋敦教授らの国際共同研究グループは,これまで研究が困難であった脳の進化の仕組みを,独自の研究技術を用いて世界に先駆けて明らかにしました。

ヒトの脳の中でも大脳(※1,図1)は,高度な脳機能に重要であるだけでなく,脳神経疾患や精神疾患などのさまざまな病気に関連することから,特に注目されています。ヒトに至る進化の歴史の中で,大脳は特に巨大化し高度な脳機能を獲得してきました。この高度な脳機能の獲得には,神経細胞とグリア細胞(※2,図2)がともにバランス良く増加することが重要だったと考えられています。しかし,研究でよく用いられるマウスの大脳はヒトの大脳に比べて小さく,マウスでは研究が困難であることから,神経細胞やグリア細胞の増加の仕組みは分かっていませんでした。本研究グループは,発達した脳を持つ高等哺乳動物フェレット(※3)を用いた独自の研究を進め,これまでに神経細胞の増加の仕組みを世界に先駆けて報告してきました。

今回,本研究グループは,これまで研究が遅れていたグリア細胞の増加の仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。本研究を発展させることにより,ヒトに至る脳の進化の仕組みの理解や脳神経疾患の原因究明に発展することが期待されます。

本研究成果は,2022年3月11日に米国オンラインジャーナル『Science Advances』に掲載されました。

 

図1. 脳の外観

左)ヒトの脳を横から見たイラスト。大脳の場所を矢印で示した。

右)脳回は大脳表面の隆起(矢印)。大脳の表面全体に脳回が見られている。

 

図2. 脳にある神経細胞とグリア細胞

脳には神経細胞とグリア細胞が存在する。グリア細胞の代表的なものが星状膠細胞。

 

図3 大脳の断面を前から見た写真

星状膠細胞の増加は脳回をつくるために重要である。

左)正常では左右で同じ大きさの脳回(*)がある。

右)星状膠細胞を減少させた場所(赤色)では,反対側(矢頭)に比べて脳回が小さくなった(矢印)。

 

図4 本研究のまとめ

大脳の断面の模式図。進化の歴史のなかで,FGFの増加が大脳における星状膠細胞(★)の増加および脳回の形成につながる鍵となる変化であることが明らかとなった。

 

 

 

【用語解説】

※1 大脳
脳の大部分を占める左右一対の塊。高次脳機能を司っており,脳のなかでも特に重要な部位。

※2 グリア細胞
脳のなかには神経細胞とグリア細胞が存在する。神経細胞は情報処理を行う一方,グリア細胞は神経細胞のサポート的役割を担っていると考えられてきた。しかし,脳には神経細胞の10倍以上の数のグリア細胞があり,近年の研究でグリア細胞も脳機能に重要であることが明らかとなってきた。

※3 フェレット
イタチに近縁の哺乳動物であり,ヒトに似た発達した大脳を持っていることが特徴。本研究室はフェレットを用いた脳の研究で世界をリードしている。

 

 

 

詳しくはこちら

Science Advances

研究者情報:河﨑 洋志

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