ナノ構造光電極の電荷分離機構を実空間で可視化 ~太陽光水分解の材料開発を促進~

【本研究のポイント】

・独自開発した電気化学イメージング技術により、TiO2(酸化チタン)ナノチューブ光電極の局所反応を可視化
・TiO2ナノチューブ光電極における電荷分離機構が直交型であることを実験的に初めて証明
・太陽光水分解による水素製造のための半導体光電極の開発に弾み

 

金沢大学ナノ生命科学研究所のマリナ・マカロワ特任助教(研究当時),高橋康史特任教授,海外PIのユーリ・コルチェフ教授(Imperial College London),福間剛士教授と,北九州市立大学との共同研究グループは,電気化学イメージングに特化したプローブ顕微鏡を用いて,微細構造を有する半導体光電極(※1)の電荷分離機構を明らかにしました。

半導体光電極を使った水分解反応は,再生可能資源からの水素製造法として注目されており,TiO2ナノチューブは水分解に有効な半導体光電極として知られています(図1)。しかし,電荷分離により生じる電子や正孔に起因した反応を局所的に分析することの技術的な課題から,その効率的な電荷分離機構についての理解は得られていませんでした。

本研究グループは,走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM,※2)使用してTiO2ナノチューブ電極の局所的な光電気化学特性を調べました(図2)。通常の光電気化学測定では電極全体の情報しか得られないのに対し,SECCMではナノピペットを利用して微小な液滴状の電気化学セルを形成し,水分解反応に由来する光電流を局所的に分析できます。光電流の高い領域と低い領域が存在する一方で,TiO2ナノチューブの上部と側面における局所的な光電流値に大きな差がないことが初めてわかりました(図3)。この結果は,TiO2ナノチューブ光電極における電荷分離機構が直交型であることを実験的に示すものです(図4)。また,この電荷分離モデルは,PbO2(二酸化鉛)粒子の光電気化学的な析出反応によっても裏付けられました(図5)。

本研究成果により,さまざまなナノ構造半導体光電極の光電流特性を微細領域で理解できるようになったことから,材料設計の最適化が加速し,光電気化学的な手法を用いた水分解反応が高性能化することが期待できます。

本研究は,科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ領域内の共同研究として実施されました。

本研究成果は,2022年1月7日(米国東部時間)に米国科学誌『ACS Catalysis』のオンライン版で公開されました。

 

 

図1. TiO2ナノチューブアレイ光電極による水素製造

光エネルギーを使って水分子を水素分子と酸素分子に分解できる。Ⓒ天野史章

図2. 走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)による局所分析

ナノピペットを走査することで,TiO2ナノチューブアレイの上部と側面の光電気化学応答を計測した。Ⓒ高橋康

 

図3.  TiO2ナノチューブアレイの三次元凹凸像と局所的な光電流応答

チューブの最上部と側面とで光電流値に大きな差は認められなかった。Ⓒ高橋康史

 

図5. TiO2ナノチューブアレイに析出したPbO2粒子

チューブの外壁と内壁の両方にまばらに付着していた。Ⓒ天野史章

 

 

【用語解説】

※1 半導体光電極
光エネルギーを吸収して電荷キャリア(電子e−と正孔h+)を生み出し,酸化反応あるいは還元反応を引き起こす電極。負の電荷を帯びた電子が伝導帯に励起されることで,価電子帯に正の電荷を帯びた電子の抜け穴「正孔」が生成する。この電子と正孔が空間的に分離されることによって,水分解の半反応を促進できる。このような光電気化学作用を利用した水分解反応は,太陽光エネルギーの化学エネルギーへの変換に応用できる。

※2 走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)
電解液と参照極を含むナノピペットをプローブとして用いて,大気環境に存在する試料表面に電気化学セルを形成し,局所的な電気化学計測を行う。プローブ顕微鏡の技術を応用し,この電気化学セルを走査することで,電極材料表面の電子移動反応をファラデー電流として可視化できる。SECCMはScanning electrochemical cell microscopyの略。

 

詳しくはこちら

ACS Catalysis

研究者情報:マリナ・マカロワ

研究者情報:高橋 康史

研究者情報:ユーリ・コルチェフ

研究者情報:福間 剛士

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