突然変異率の上昇は植物の多様化の土台になる!~激流で生き抜く水生植物カワゴケソウ科の進化の基盤~

掲載日:2022-2-7
研究

金沢大学疾患モデル総合研究センターの西山智明助教と千葉大学大学院理学研究院,大阪市立大学大学院理学研究科(附属植物園)の共同研究グループは,河川の激流という過酷な環境へ適応した植物である水生植物カワゴケソウ科において,突然変異(※1)が生じるスピード(突然変異率)が,激流環境に進出したタイミング(科の起源の時期)と,その後に特殊形態を獲得したタイミング(科内で多様化が始まった時期)で上昇していたことを明らかにしました。

本研究は,突然変異率の上昇と植物の重要な進化イベントを結びつけることができた初めての報告です。カワゴケソウ科の歴史において,過酷な環境下での自然選択により形態が進化してきただけでなく,突然変異率が上昇することで,遺伝的な変異の供給が増え,進化の幅が広がったことが多様化の土台となったと考えられます。突然変異の上昇と進化イベントの関係については,進化の歴史の中で両者が互いに影響し合ってきたことが想定されます。今後,さらに変異率上昇の原因を探究していくことで,野生生物で実際に起こった進化の中で突然変異率上昇が果たす役割に迫っていくことができると考えています。

本研究成果は2022年1月20日にシュプリンガー・ネイチャー社発行のオープンアクセス誌『Communications Biology』に掲載されました。

 

図1. カワゴケソウ科植物の生育環境と形態

左:生育環境。激流中に見える緑色のものがカワゴケソウ科植物。中央:岩の上を這う植物体。根から直接シュートが生じている。右:一般的な被子植物とカワゴケソウ科植物の体制の比較。

 

図2. 突然変異率の上昇とカワゴケソウ科の進化イベントの関係

 

図3 1,640遺伝子の塩基置換速度の相対変化量

左:カワゴケソウ科の起源時。右:短命シュートの進化時。※白抜き部分は統計的には差があるとは言えない遺伝子を示す。

 

 

 

【用語解説】

※1  突然変異
紫外線などの外的要因や細胞分裂時のDNA複製エラーなどにより,まれに起こる塩基配列の変化のこと。突然変異が起こると遺伝子の情報が書き換わり,細胞のがん化など生命機能が脅かされることが多いが,その反面,変異が環境に有利な影響をもつ場合もあるため,突然変異は進化に欠かせない遺伝的な変異の供給源ともなり得る。突然変異率は,生物の生息環境や細胞分裂頻度によって変わり,その違いは生物の進化に影響を及ぼす可能性がある。
変異には,アミノ酸をかえる変異とかえない変異があり,アミノ酸をかえる変異には自然選択が働きやすく,有利な変異が残り不利な変異は排除されがちである。新たな環境に移りどの変異が有利かが変わると、自然選択によって遺伝子の進化速度が上昇するということが想定される。一方,アミノ酸をかえない変異はたいてい遺伝子の機能が変わらず有利不利がない自然選択にほぼ中立な変異となり,その速度は突然変異率にほぼ等しくなると考えられている。

 

 

 

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Communications Biology

研究者情報:西山 智明

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