脳を形成する神経細胞の分配機構を解明

掲載日:2020-8-26
研究

金沢大学新学術創成研究機構の佐藤純教授らの共同研究グループは,脳の解析モデルとされるショウジョウバエの脳を用いて,ダウン症の原因遺伝子であるDown syndrome cell adhesion molecule1(Dscam1)が脳のカラム形成において中心的な働きをすることを明らかにしました。

私たちの脳は無数の神経細胞から成りますが,神経細胞は無秩序に配置されているわけではなく,多数の神経細胞が規則正しく集まったカラム構造を示します。カラム構造は脳の機能単位として働き,脳の機能を実現する上で重要です。しかし,多数の神経細胞がどのようにして集合し,カラム構造を形成するのかは分かっていませんでした。

また,脳の形成過程においては,神経幹細胞と呼ばれる特別な細胞が多数の神経細胞を生み出します。哺乳類を用いた研究では,同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞の集団がカラム形成と密接に関係するといわれていますが,その詳細は明らかになっていませんでした。

本研究グループは,哺乳類の脳と同様にカラム構造を示すショウジョウバエの脳を用いた実験により,同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞どうしが反発し,異なるカラムに分配される「細胞系譜依存的反発」現象を見いだしました。

また,この過程においてダウン症の原因遺伝子の1つであるDscam1が重要な働きをすることを見いだしました。Dscam1は約2万もの異なるタイプの遺伝子から成り,これが神経幹細胞において一過的に発現することで,同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞の集団は同じ色でラベルされます。さらに,同じ色でラベルされた神経細胞どうしがDscam1の働きによって反発することにより,異なるカラムに分配されることが分かりました。実際,Dscam1の機能が失われると,同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞が同じカラムに投射し,周囲のカラムの構造に異常が生じることを見いだしました。

細胞系譜に依存したカラム形成機構はヒトを含めたあらゆる動物において共通していると考えられ,本研究成果はヒトの脳の形成機構の解明,神経疾患の発症機構の解明への応用が期待されます。

本研究成果は,2020年8月13日13時(英国時間)に英国科学誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。

 

図1. Dscam1は同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞を同じ色でラベルする。

 

 

図2. Dscam1の機能が失われると同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞が同じカラムに投射する。

 

 

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Nature Communications

研究者情報:佐藤 純

 

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