令和5年度文部科学大臣表彰 本学の教員4名が受賞

掲載日:2023-4-7
ニュース

 令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を本学の教員4名が受賞しました。
科学技術分野の文部科学大臣表彰は,科学技術に関する研究開発,理解増進等において顕著な成果を収めた者について,その功績をたたえることにより,科学技術に携わる者の意欲の向上を図り,もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的として,文部科学省が毎年実施しているものです。

 中でも,科学技術賞(研究部門)は,我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は発明を行った個人又はグループを対象にしており,若手科学賞は,萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた若手研究者個人を対象としています。

受賞者と業績名は以下の通りです。

 

<科学技術賞 研究部門>
 我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者を表彰

後藤 典子  がん進展制御研究所 教授

[績名] がん幹細胞が維持される微小環境の仕組み解明の研究

 日本人の死因第一位であるがんは,超早期のがんが悪性化する前に予防的治療を行うか,発症しても治療により再発や転移を抑えられれば,がんの根治を期待できます。いわゆる「がん幹細胞」ががん組織を作り出すことが知られているものの,がん幹細胞が維持される仕組みは不明な点が多く,超早期がんの悪性化予防法や再発転移を効果的に防ぐ治療法は確立されていません。
 本研究では,超早期のがん幹細胞を取り囲む炎症性の微小環境「超早期のがん幹細胞ニッチ」が、細胞内分子 FRS2beta によって作り出されることを世界で初めて見出しました。さらにがん幹細胞は,この炎症性のがん幹細胞ニッチを常に作り出して治療抵抗性を獲得し,生体内に棲みついていることを,世界に先駆け明らかにしました。
 本研究により,FRS2beta が画期的ながん予防の標的となる可能性が示されました。さらに本研究により明らかになったがん幹細胞が産生するサイトカインや増殖因子,その受容体,細胞内の鍵分子はいずれもががん幹細胞の標的分子です。
 本成果は,超早期がんの悪性化予防法,さらにはがん幹細胞の標的治療による再発転移予防法の確立に貢献し,がんの根治に寄与することが期待されます。

 

<科学技術賞 研究部門>
 我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った者を表彰

福間 剛士 ナノ生命科学研究所 教授

[業績名] 高速3次元原子分解能顕微鏡技術による液中ナノ科学研究

 原子間力顕微鏡(AFM)は,液中で絶縁体の原子分解能観察が可能な現在唯一の技術ですが,その速度や機能が及ばず,未だナノスケールでは観ることのできない構造や現象が,生命科学,界面科学,電気化学などの液中科学分野には数多く残されており,その発展を妨げてきました。
 本研究では,液中原子分解能 AFM を約 50 倍高速化し,1 秒/像での高速原子像観察を実現しました。また,動作を 3 次元へと拡張し,様々な 3 次元自己組織化構造のナノスケール内部観察を実現しました。さらに,電位計測機能を改良し,液中でのナノスケール電位分布計測を実現しました。
 本研究により,鉱物結晶の成長・溶解過程の高速原子分解能観察や,水和構造,高分子膨潤構造,生細胞内部構造の 3 次元観察,腐食・触媒反応分布のナノスケールその場観察などが実現され,これらの構造や現象の起源に関するナノレベルでの理解が大きく進展しました。
 本成果は,結晶成長,溶解が関わる光学製品,薬剤,洗剤の改良や,界面制御が関わる防汚,潤滑,分散,親水化技術の高度化,細胞内現象が関わる疾患の治療・診断技術の進展,腐食,触媒,電池,センサに関する技術の発展などに寄与することが期待されます。

 

<若手科学者賞>
 萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を表彰

黒田 浩介 理工研究域生命理工学系​ 准教授   

[績名] 生命溶媒の人工デザインに挑む研究

 生命科学において,最も利用される非水溶媒はジメチルスルホキシド (DMSO) です。 DMSO よりも毒性・機能性の面から優れた有機溶媒はありませんが, DMSO は決して低毒性ではなく, また, iPS 細胞の分化を誤誘導するなど多くの問題を抱えています。
 黒田准教授は, 低毒性な機能性溶媒を人工的に設計しました。 その溶媒の素材としては, 性質を自在に制御できるイオン液体を選択しました。 毒性発現の分子メカニズムから逆算し, 低毒性なイオン液体を世界に先駆けて開発しました。 当該イオン液体は, 細胞の凍結保存剤, 難溶性薬剤の溶解剤, バイオエタノ ール生産用の溶媒として利用することができました。
 本研究成果は, “これまで不可能だった, 様々な生命科学応用” を達成可能にします。 例えば, これまで 凍結保存できなかった細胞を凍結保存することで, 再生医療への貢献が期待されます。

 

<若手科学者賞>
 萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を表彰

松本 翼 ナノマテリアル研究所 准教授    

[績名] 反転層チャネルを用いたダイヤモンドパワーデバイスの研究

 エネルギー的に持続発展可能な社会実現に向けて, 革新的省エネパワ ー半導体デバイス技術の開発が必要技術の一つとなっています。従来の本技術発展の流れである高性能なパワ ーデバイス材料への置換だけでは, 不十分であり, 新しい物理が必要とされています。
 松本准教授は, 究極の半導体材料と言われるダイヤモンド半導体を用いて, ダイヤモンド薄膜の高品質化と新し い表面終端技術により, 最も信頼性が高く, 世界中で使われている反転層チャネルMOSFETの実証に成功しました。 さらに, 絶縁性を示す窒素ドー プn型ダイヤモンド薄膜を組み込み, 既存学問にはないデバイス物理, 構造を提案し, さらなる高性能化を進めています。
本研究成果は, ダイヤモンドパワ ーエレクトロニクス産業の創成を牽引し, 大規模な省エネ化と持続的発展可能な経済社会の実現に導くと期待されます。

 

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