中島 王彦さん 写真
Research NEWS

宇宙初期に観測史上最少の酸素量を持つ極小銀河を発見 ―宇宙の化石天体の起源に迫る―

国際基幹教育院GS教育系、准教授
中島 王彦NAKAJIMA, Kimihiko

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 金沢大学国際基幹教育院GS教育系の中島王彦准教授をはじめとする、金沢大学や国立天文台などの研究者からなる国際研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)(※1)の強力な赤外線分光能力と、天然の虫眼鏡である「重力レンズ効果」(※2)を組み合わせることで、宇宙誕生から約8億年後の時代にある、極めて暗く小さな銀河「LAP1-B」の超高感度観測に成功しました。

 解析の結果、星形成領域(星が生まれている現場のガス)に含まれる酸素の割合がこの銀河では太陽のわずか240分の1程度と極めて小さく、観測史上最少の酸素存在比(※3)を更新しました。これは、銀河全体が化学的に極めて原始的な段階にあることを示しています。さらに、その元素組成や暗黒物質(※4)に支配された質量構造を分析したところ、現代の天の川銀河の周辺にあり、長年謎に包まれていた「超低光度矮小銀河(Ultra-Faint Dwarf:UFD銀河)」(※5)の生まれて間もない頃の姿かもしれないことが分かりました。これまでUFD銀河は、宇宙初期に誕生した化石天体と考えられながらも、その形成現場を直接捉えた例はありませんでした。今回のLAP1-Bの発見は、UFD銀河誕生という長年の謎を解き明かす世界初の決定的な糸口となります。

 本研究成果は、宇宙最初の星「初代星」(※6)が元素を放出した直後の現場に迫る有力な証拠を得たものであり、生命の材料となる元素の蓄積と、銀河の誕生がどのように始まったのかを解き明かす画期的なものです。

 本研究成果は、2026年5月13日午後4時(英国時間)にイギリスの国際科学誌『Nature』のオンライン版に掲載され、翌14日発行の同誌(本誌)に掲載されました。

図1:巨大銀河団の「重力レンズ」が暴いた極小銀河LAP1-Bの素顔
(背景)JWSTの近赤外線カメラ(NIRCam)が捉えた巨大銀河団MACS J0416。
(拡大図)JWSTの近赤外線分光器(NIRSpec)のデータを基に作成した、LAP1-Bの「速度空間」3色合成画像。この銀河は星の数が少なく極めて暗いため、背景のカメラ画像(NIRCam)ではその姿を確認できませんが、分光観測によって、水素や酸素が放つ微弱な光(輝線)を捉えることに成功しました。拡大図の横軸は、ガスの運動(速度)、縦軸は、空間的な広がりを示しており、異なる元素の分布を可視化しています(青:水素のLyα輝線、緑:酸素の[OIII]輝線、赤:水素のHα輝線)。Lyα輝線は、各元素の分布を見やすくするため、表示上で速度を200 km/sオフセットさせています。🄫🄫 NASA, ESA, CSA & K. Nakajima et al., Nature

【用語解説】

※1 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)
2021年に打ち上げられた、史上最大の赤外線宇宙望遠鏡のこと。

※2 重力レンズ効果
巨大な質量のそばを通る光が曲げられ、遠くの天体が拡大されて見える現象。

※3 酸素存在比
水素Hに対する酸素Oの個数比(O/H)。ここで水素は、宇宙誕生時から存在していた元素であるため、基準に使われる。

※4 暗黒物質
宇宙に存在する、光を発しない未知の物質。今回の銀河「LAP1-B」は、星やガスの質量に比べてダークマターの割合が圧倒的に高いことが判明しており、これが「超低光度矮小銀河」の祖先であると判断する重要な決め手となっている。

※5 超低光度矮小銀河(Ultra-Faint Dwarf:UFD銀河)
私たちの天の川銀河の周りなどに存在する、極めて星の数が少ない暗い銀河。宇宙初期の情報を保持していると考えられている。

※6 初代星
宇宙で最初に生まれた星。重い元素を全く含まない。宇宙の暗黒時代を終わらせ、宇宙の最初の元素合成を引き起こしたとされる極めて重要な天体。

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Nature

【研究者からのコメント】

研究チーム代表 金沢大学 中島王彦准教授
データに現れた圧倒的な酸素の欠乏を見たときは、思わず興奮しました。これほどピュアな状態の銀河が存在し、その姿をここまで克明に捉えられたことは、まさに驚きです。これまでの“宇宙考古学”では、現代に残る古い星から過去を推測してきましたが、今回は130億年前の“当時の現場のガス”を直接分析できたことに大きな意義があります。これにより、初代星が作り出した元素が初めて銀河に受け継がれた、まさにその瞬間を実際に捉えた可能性があると考えています。こうした研究は、私たちの起源につながる元素が宇宙でどのように生まれ、蓄積してきたのかを理解するうえでも重要です。

国立天文台/東京大学 大内正己教授
超低光度矮小銀河(UFD銀河)は、最も暗い銀河であるだけでなく、120億年以上前に生まれた古い星からなる天体で、“宇宙の化石”とも呼ばれています。酸素などの重い元素をほとんど含まないことから、宇宙で最初に誕生した銀河の生き残りではないかと考えられてきましたが、その形成過程の多くは謎に包まれてきました。今回観測されたLAP1-Bは、これまで推測されてきたUFD銀河の祖先の姿と非常によく似ており、大きな驚きでした。この銀河を詳しく調べることで、UFD銀河がなぜ“宇宙の化石”として現在までその姿を保っているのか、その謎に迫ることができると期待しています。

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