タンパク質合成装置リボソームが持つ触手のはたらきの可視化に成功!

掲載日:2020-12-18
研究

金沢大学ナノ生命科学研究所の今井大達日本学術振興会特別研究員,古寺哲幸教授,新潟大学理学部内海利男名誉教授の共同研究グループは,タンパク質合成装置リボソーム(※1)の構成成分の一つである触手タンパク質複合体「ストーク(※2)」の動きとはたらきの一端を可視化することに世界で初めて成功しました。

あらゆる生命活動の中心を担うタンパク質は,リボソームという多分子集合体のはたらきによって合成されます。リボソームが素早く正確にタンパク質を合成するには翻訳因子(※3)と呼ばれるリボソーム結合タンパク質を必要としますが,さまざまな分子が混在する細胞内において,翻訳因子がどのようにリボソームに効率よく結合し,タンパク質合成をスムーズに進行させるのかについて,明らかにされていませんでした。

本研究グループは,高速原子間力顕微鏡(高速AFM,※4)を用いて,タンパク質合成反応速度に決定的な役割を果たすリボソームのストークの動きを観察しました。その結果,ストークは複数の触手様部位を用いておのおのの翻訳因子を受容し,リボソーム近傍に翻訳因子をかき集めることで,翻訳因子の局所濃度を上昇させていることを明らかにしました(図1)。

この知見は,リボソームがタンパク質を合成する根本原理の解明に貢献するとともに,癌やウイルス感染といったリボソームが関わる病気などの研究への波及効果が期待できます。

本研究成果は,2020年12月7日(米国東部時間)に米国科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America(米国科学アカデミー紀要)』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 図1. 触手タンパク質複合体(ストーク)と翻訳因子の相互作用動態

(A)翻訳伸長因子EF2が触手タンパク質複合体に集合していく様子

(B)触手タンパク質複合体がリボソーム近傍の翻訳因子の局所濃度パターンに影響を及ぼす

 

 

  

高速AFMで撮影した動画

超好熱性古細菌Pyrococcus furiosus由来50Sリボソームの高速AFM像(左)

翻訳伸長因子EF2が触手タンパク質複合体に集合していく様子(右)

 

 

【用語解説】

※1 リボソーム
 全長約30〜40 nmの細胞内粒子であり,すべての生物が持つタンパク質合成装置。大小2つのサブユニット(大サブユニット,小サブユニット)から成る。各サブユニットは、リボソームRNA(rRNA)とリボソームタンパク質から構成される。

※2 ストーク
 複数のリボソームタンパク質から構成されるタンパク質複合体であり,リボソームの重要な機能ドメインの一つ。すべての生物が持ち,古細菌ではリボソームタンパク質aP0にリボソームタンパク質aP1ホモ二量体が三対結合したPストーク七量体として存在する。aP0とaP1のC末端側には約60残基から成る天然変性領域が存在し,これらはリボソームの触手のように振る舞うと考えられている。その高い運動性のため,ストーク全長を含むリボソームの完全な構造モデルはいまだに報告されていない。

※3 翻訳因子
 タンパク質合成反応のさまざまな段階でリボソームに結合し,その機能を制御するタンパク質群の総称。アミノアシルtRNAのリボソームへの運搬や,リボソームの転座反応など,その機能は多岐にわたる。GTP(グアニンヌクレオチド三リン酸)に結合し,その加水分解のエネルギーを利用して働く翻訳因子はGTPase翻訳因子と呼ばれる。

※4 高速原子間力顕微鏡(高速AFM)
 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)は探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状をナノメートル(10-9 m)程度の高い空間分解能で可視化する顕微鏡。高速AFMは金沢大学の安藤敏夫特任教授のグループによって開発された超高速で観察できるAFMで,サブ秒(~0.1秒)という時間分解能でタンパク質などの生体分子の形状や動態をその周囲の環境を含めて観察することができる。

 

詳しくはこちら

Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America

研究者情報:古寺 哲幸

 

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