B型肝炎ウイルスが細胞核に侵入する新しい感染経路を発見!

掲載日:2022-11-2
研究

金沢大学医薬保健研究域保健学系の本多政夫教授,医薬保健研究域医学系の李影奕博士研究員,山下太郎教授,金子周一特任教授らの研究グループは,B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HBV※1)がゴルジ逆行性輸送経路※2を介して核内に侵入する新しい感染経路を発見しました。

HBVは肝臓に持続感染し,慢性肝炎や肝細胞がんの誘因となっています。現行の抗ウイルス剤ではHBVを肝細胞から完全に排除することはできず,肝細胞がんの発生を完全に防ぐことはできません。HBVはそのレセプターであるNa(+)/Taurocholate Transport Protein(NTCP)を介して細胞内に侵入しますが,細胞内に侵入したのち,初期エンドソーム(Early endosomes:EEs※3)から後期エンドソーム(Late endosomes:LEs※4)に到達し,核内に侵入すると考えられていました(図1)。

今回,本研究グループは細胞内に侵入したHBVが従来の経路に加えて,EEsからトランスゴルジネットワーク(Trans-Golgi network:TGN※5),次いで小胞体(Endoplasmic reticulum:ER※6)を経て,核内に侵入するゴルジ逆行性輸送経路を利用していることを発見しました(図1)。この経路は,リソソームからの分解を回避しながら効率よく核内に侵入できるため,HBVの持続感染機構の一つであると考えられます。さらに,本研究グループはHBVのゴルジ逆行性輸送経路がグアニンヌクレオチド交換因子(Guanine nucleotide exchange factor:GEF※7)活性を有するDOCKファミリー分子※8の一つである,DOCK11(Dedicator of Cytokinesis 11)によって制御されていることを突き止めました。DOCKファミリー分子は近年,がん,免疫疾患に加え,COVID19を含む感染症の治療標的として注目されており,本研究グループの発見は,DOCK11を標的とした新たな抗HBV薬の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は,2022年10月18日「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」のオンライン版に掲載されました。
 

図1

 

従来の報告では,HBVは細胞膜上のレセプターNTCPを介して細胞内に侵入したのち,

初期エンドソーム(EEs)から後期エンドソーム(LEs)に移行し,LEsはリソソームと癒合し,HBVはリソソームによる分解を受けながら,ヌクレオキャプシドが核に移行する経路が提唱されていた。本研究では,それとは別に,HBVがEEsからゴルジ(TGN)そして小胞体(ER)に移行し,核内に侵入するゴルジ逆行性輸送経路を利用していることを明らかにした。この経路はリソソームからの分解を回避できる利点と内因性インターフェロンによる攻撃を回避できる利点がある。さらに,DOCK11はゴルジ逆行性輸送経路に重要な働きをする分子群(AGAP2とARF1)と結合し,GEF及びGAP活性サイクルを活性化しながらHBVの輸送を活性化していると考えられる。

本研究は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構 B型肝炎創薬実用化等研究事業(B型肝炎ウイルス排除に向けた新規治療法の最適化と学術基盤の確立)の支援を受けて実施されました。

【用語解説】

※1 B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HBV)
 不完全二本鎖DNAよりなる肝炎ウイルスで,ヘパドナウイルス科に分類される。直径約42nmの球状ウイルスで,エンベロープとヌクレオキャプシドの二重構造を有している。ヌクレオキャプシド内ではHBVゲノムやDNAポリメラーゼが存在している。

※2 ゴルジ逆行性輸送経路
 細胞内の蛋白は順行性に小胞体からゴルジに輸送され,エンドソームから細胞外に分泌される。しかし,欠陥のある蛋白などはゴルジから小胞体に戻され修復が行われる。ゴルジ逆行性輸送は蛋白の監視機構として働いている。一方,パピローマウイルスはゴルジ逆行性輸送経路を介して核内に侵入することが知られている。

※3 EEs (Early endosomes)
 初期エンドソームは,エンドサイトーシスされた物質を選別する場として機能するオルガネラ。

※4 LEs (Late endosomes)
 後期エンドソームは,リソソームと融合することで内容物を分解へと導くオルガネラである。初期エンドソームにおいて分解経路へと選別された物質は,後期エンドソームを介して最終的にリソソームで分解される。

※5 TGN (Trans-Golgi network)
 ゴルジ体はタンパク質を糖鎖などで修飾し,それぞれを働くべき場所へ輸送する中心的な役割を担う。ゴルジ体を形成する層状構造のうち,細胞膜側のトランス面が形成する網目状の構造部分。

※6 ER(Endoplasmic reticulum)
 小胞体。リボゾームが付着し蛋白の合成が行われるオルガネラ。

※7 GEF(Guanine nucleotide exchange factor)
 GTPを付加する事によりGTP結合タンパク質を活性化させる働きを有する。GTP結合タンパク質はGTPを結合しているとき活性化状態,GDPを結合しているとき不活性状態であり,GEFは不活化状態のGTP結合タンパク質からGDPの放出を促進してGTPを結合させることによって活性化を行う。

※8 DOCKファミリー分子
 GEF活性を有し,細胞形態や運動の制御にかかわる分子ファミリーとして知られている。その機能やシグナル伝達機構は国際的にも大きな関心を集めている。DOCK1はがんとの関連,DOCK8とアレルギーの関連が報告されている。最近,DOCK2の遺伝子多型とCOVID-19の重症化との関連が報告された。
 

プレスリリースはコチラ

Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology

・ 研究者情報:本多 政夫

・ 研究者情報:山下 太郎  

・ 研究者情報:金子 周一

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