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Research NEWS

CD8陽性T細胞が“戦う細胞”に変わる仕組みを解明

医薬保健研究域医学系,教授
倉知 慎KURACHI, Makoto

 金沢大学医薬保健研究域医学系の倉知慎教授、藤澤宗太郎助教、新学術創成研究機構の田辺和助教、ナノ生命科学研究所の宮成悠介教授、ペンシルバニア大学のE. John Wherry 教授らの共同研究グループは、転写因子(※1)BATF が、免疫細胞の一種であるCD8陽性T細胞が活性化されて攻撃型(戦う細胞)にに変わる仕組みを明らかにしました。

 近年、感染症やがんに対する免疫療法の研究が進む中、免疫細胞の働きを正しく理解することは、より効果的な治療法の開発に向けて重要な課題となっています。本研究では、BATFが抗原刺激(※2)を受けたCD8陽性T細胞において、クロマチン(※3)構造のリモデリング(※4)や遺伝子発現の調節を通じて、ウイルス感染細胞やがん細胞などを攻撃するエフェクター細胞への分化(※5)を促進することが明らかになりました。さらに、BATFがCD8陽性T細胞のエフェクター分化を適切に誘導するためには、転写因子IRF4 と直接的に相互作用する必要があることも、今回初めて明らかになりました。

 本成果は、免疫細胞の分化メカニズムの理解を深めるとともに、免疫応答の制御を通じて、より効果的なワクチンやがん免疫療法の開発につながる可能性を示しています。

 研究成果は、2025年8月26日に米国科学誌『Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。

 なお、本研究は、2021 年度に金沢大学に新設されたバイオセーフティレベル(※6)3動物実験施設を活用して実施されました。

【用語解説】

※1 転写因子
 DNA上の特定の配列を認識して結合し、遺伝子の発現を制御するタンパク質。CD8陽性T細胞を含むさまざまな細胞の分化に寄与します。

※2 抗原刺激
 T細胞やB細胞は、生体に侵入したウイルスなどの異物由来の特定の構造(抗原)を認識することで活性化します。

※3 クロマチン
 細胞核内における、ヒストンなどのタンパク質とDNA の複合体。DNAはヒストンに巻きついた状態で折りたたまれ、コンパクトに核内に格納されます。

※4 リモデリング
 クロマチンの構造が変化すること。遺伝子の発現が促進される際には、DNAのヒストンへの巻きつきが緩む必要があります。

※5 分化
 細胞が異なる性質や機能を獲得すること。

※6 バイオセーフティレベル
 細菌・ウイルスなどの病原体を取り扱う実験施設の分類で、病原体を封じ込めるための設備や運営管理体制により1~4に区分されています。この数字が大きくなるほど、施設設備や管理体制のレベルが上がります。

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Cell Reports

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