世界初!自閉スペクトラム症の言語発達に関わる脳の特徴を可視化-言語発達の遅れに関連する脳機能について新たな知見-

掲載日:2017-12-13
研究

金沢大学人間社会研究域学校教育系の吉村優子准教授,子どものこころの発達研究センターの三邉義雄教授,菊知充教授らの研究グループは,産学官連携のプロジェクトで開発した「幼児用脳磁計(Magnetoencephalography: MEG)」を活用し,言語発達に遅れのある自閉スペクトラム症児(※)の特異的な脳活動を捉えることに成功しました。

今回,3歳から5歳の自閉スペクトラム症児47名,健常児46名を対象に平坦な言い方の「ね」と,呼びかける言い方の「ねぇ」の2種類の声を聞いてもらい,声の変化によって起こる脳活動を調べたところ,自閉スペクトラム症児が,微妙な言葉のニュアンスの違いをうまく識別できていないのは,脳の聴覚野の反応が乏しいためであることが証明されました。さらに,言語発達に遅れのある自閉スペクトラム症児は,「ね」の言い方の変化に対して前頭葉の反応が大きいことを発見しました。

前頭葉は,注意の切り替えなどの機能を担っていることから,言語発達に遅れのある自閉スペクトラム症児は,音の変化への注意の切り替えに,過剰なエネルギーを要するため負担がかかっていることを示しています。これまで,自閉スペクトラム症児は,人の声に対して,健常発達の子どもよりも聴覚野の反応が少ないことは言われてきましたが,前頭葉に着目して言語発達の遅れの有無との関連を調べたものはありませんでした。まだほとんど解明されていない幼児の覚醒時の脳機能において,人の声処理に関わる脳活動を捉え,自閉スペクトラム症の特徴を脳活動から捉えることに成功した本研究の成果は極めて画期的です。

今後,言語発達に遅れが認められるメカニズムが解明されることで自閉スぺクトラム症児の脳活動のメカニズムの解明や支援法,治療薬の開発などにつながることが期待されます。

本研究成果は,イギリスの科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版に日本時間平成29年12月7日(木)午後7時に掲載されました。


【図の解説】
左図は,自閉スペクトラム症(ASD)で特に言語獲得の遅れのあったASD児で,声の抑揚の変化に対して脳の反応の大きかった部位を示しています。右図は,その部位の反応の大きさを定型発達,言語獲得に遅れのないASD児,遅れのあるASD児に分けて示してあります。言語獲得の遅れのあるASD児は,定型発達児に比べて8%,言語獲得の遅れのないASD児に比べて11%大きい反応を認めました。


【用語解説】
※自閉スペクトラム症
対人関係の障害,コミュニケーションの障害,限局した興味・活動の3つの特徴を持つ脳の発達障害。


詳しくはこちら[PDF]

Scientific Reports

研究者情報:吉村優子

研究者情報:三邉義雄

研究者情報:菊知充

 

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