脳の表面にシワを作るシグナルを発見 〜脳の高機能化の理解に手がかり〜

掲載日:2017-11-20
研究

医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授,松本直之助教らの研究グループは,これまで解析が困難だった脳回(※1)(図1)が作られる仕組みを,独自技術を用いて世界に先駆けて明らかにしました。

ヒトの脳の表面(=大脳皮質(※2))に存在する脳回は,高度な脳機能の発達にとても重要だと考えられていますが,医学研究に用いられているマウスの脳には脳回がないため,従来,脳回に関する研究は困難でした。そこで,本研究グループは,マウスよりもさらにヒトに近い脳を持つ動物の研究が今後重要であると考え,これまでフェレット(※3)を用いた研究技術開発を推進し,フェレットを遺伝子レベルから解析する独自の研究技術の開発に成功してきました。

今回,本研究グループは従来の研究をさらに発展させ,この独自の研究技術を使って,これまで解析が困難だった大脳皮質に脳回が作られる仕組みを探索し,線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル経路(※4)が脳回形成に重要であることを世界に先駆けて発見。FGFシグナル経路を抑制すると脳回の形成が阻害されること(図2)や,FGFシグナル経路の異常により脳回の神経細胞の数が減少すること(図3)などを見いだしました。

従来,脳回ができる仕組みに関する研究はほとんどなく,本研究グループの成果は世界に先駆けた独自の研究成果です。本研究を発展させることにより,従来のマウスを用いた研究では解明が困難だった,ヒトに至る脳の進化の研究やさまざまな脳神経疾患の原因究明や,治療法の開発に発展することが期待されます。

本研究成果は米国の科学誌『eLife』のオンライン版に日本時間の平成29年11月14日に掲載されました。また,本成果の一部は文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

 

図1 脳の表面に数多く存在する脳回(矢印)

左)ヒトの脳を横から見たイラスト。 右)脳の断面図のイラスト。

 

 

図2 FGFシグナル経路の抑制によって異常となった脳回の様子

フェレットの脳を横から見た図。各図とも,右側が前,左側が後ろに対応します。正常では真っすぐ伸びている脳回(矢頭)が,FGFを抑制すると途切れていることが分かります(矢印)。この結果は,FGFシグナル経路が脳回の形成に重要であることを意味しています。右下の図において緑色(=GFP)になっている部分は,FGFシグナル経路を抑制した場所を意味しています。

 

 

図3 本研究結果のまとめ

大脳皮質の断面図のイラスト。大脳皮質の中で神経前駆細胞(※5)が多くある部分から,脳回の隆起が形成されます(左図)。FGFシグナル経路を抑制すると,神経前駆細胞が減少し脳回の形成が抑制された(右図)ことから,FGFシグナル経路が脳回を作るために重要なシグナル経路であることが明らかとなりました。


【用語解説】
※1 脳回
大脳皮質の表面に見られるシワ(隆起)の名称。大脳皮質にはシワが存在することで,表面積が広くなっており,その結果,大脳皮質に含まれる神経細胞の数を増やしていると考えられています。マウスには脳回は存在せず,ヒト,サル,フェレットなどの高等な動物には存在することから,脳回は脳機能の発達に重要ではないかと考えられています。

※2 大脳皮質
大脳の表面を覆っている脳部位の名称。大脳皮質は,他の動物に比べてヒトで特に発達しており,高次脳機能に重要な部位と考えられています。大脳皮質のダメージは,さまざまな脳神経疾患や精神疾患につながると考えられており,脳の中では最も注目されている部位の一つです。

※3 フェレット
イタチに近縁の高等哺乳動物。マウスに比べて脳が発達しており,脳回を持っているため今回の研究に採用しました。フェレットを用いた遺伝子研究は世界的にもまだ少なく,本研究グループの特徴となっています。

※4 線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル経路
FGFによって活性化される細胞内のシグナル伝達経路。組織の発生や分化,増殖に重要な役割を担っていることが知られています。

※5 神経前駆細胞
胎児期に脳が作られる際に,神経細胞を生みだす源となっている細胞のこと。神経前駆細胞は分裂して数を増やし,その後,神経細胞になっていきます。


詳しくはこちら[PDF]

eLife

研究者情報:河﨑 洋志

研究者情報:松本 直之

 

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