世界で初めて液中で原子の動きを観ることができる高速原子間力顕微鏡を開発!鉱物の表面が溶解する様子を原子レベルで捉えることに成功

理工研究域電子情報学系福間剛士教授と理工研究域バイオAFM先端研究センターの宮田一輝助教らの研究グループは,フィンランドAalto大学の研究グループと共同で,従来の約50倍の速度で液中原子分解能観察が可能な高速周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を開発し,水中でカルサイト(方解石,CaCO3)の表面が溶解する様子を原子レベルで観察することに成功しました。

カルサイトは地球上に最も豊富に存在する鉱物であり,その溶解過程は地球規模の炭素循環,気候,地形,水性環境などに重大な影響を及ぼすことが知られています。これらの大規模かつ長期的に生じる現象を正確に予測するためには,カルサイトの溶解がどのように生じているのかを原子レベルで正確に理解することが望まれます。しかし,既存の計測技術では,これらの原子レベルの動的な挙動を液中で直接観察することはできなかったため,溶解機構に関する正確な理解は得られていませんでした。

今回,研究グループでは,液中で原子の動きを直接観察することのできる高速周波数変調原子間力顕微鏡(Frequency Modulation Atomic Force Microscopy: FM-AFM)の開発に世界で初めて成功しました。さらに,この技術を用いて,カルサイトの表面が水中で溶解する様子を原子レベルで観察することに成功し,単分子ステップ(※1)に沿って幅数nmの遷移領域が,溶解過程における中間状態として形成されることを世界で初めて発見しました。この発見は,上述した地球規模でのさまざまな現象の予測精度の向上につながるものと期待されます。また,ここで開発した高速FM-AFM技術は,カルサイトだけでなくさまざまな鉱物,有機分子,生体分子の結晶成長・溶解,自己組織化,さらには金属腐食や触媒反応などの固液界面現象の原子レベルでの直接観察を可能とするものであり,幅広い学術・産業分野での研究の進展に貢献することが期待されます。

本研究成果は,2017年6月26日にAmerican Chemical Society「Nano Letters」のオンライン版に掲載されました。

 

図1:(a)カルサイト表面の原子モデル。(b)高速FM-AFMで観察した水中でのカルサイト表面の溶解過程。溶解によってステップが右下から左上方向に移動する様子が分かる。また,ステップに沿って遷移領域も見られる。(c) (b)に示した線分PQに沿って測った高さプロファイル。単分子ステップの高さは約0.3 nmだが,遷移領域はそれよりも低い。図中に示したテラスとは,結晶表面の原子レベルで平坦な部分のことを指す。テラス(上)は,テラス(下)に比べてCaCO3分子一層分だけ高いテラスである。

 

図2:遷移領域のシミュレーションモデル。テラス(上)とテラス(下)の境界にあるステップの近傍にCa(OH)2単層膜を配置したモデルを用いて古典的分子動力学シミュレーションを約7.5 ns行い,Ca(OH)2単層膜が表面から離れずに安定してステップに接する位置に存在し得ることを確認した。

図3:カルサイト溶解機構を表す原子スケールモデル

 

【用語解説】
※1 ステップ
結晶表面には,原子レベルで平坦なテラスと呼ばれる部分と,テラスの端部にあるステップと呼ばれる段差が見られる。また,結晶を構成する分子の1層分の高さを持つステップのことを単分子ステップという。
 

 


詳しくはこちら[PDF]

Nano Letters

研究者情報:福間 剛士

研究者情報:宮田 一輝

 

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