希少難病の脳異常の発症プロセスを解明

医薬保健研究域附属脳・肝インターフェースメディシン研究センターの河﨑 洋志教授,医薬保健研究域医学系の松本直之助教らの研究グループは独自の技術を用いて,これまで解析が困難だったタナトフォリック骨異形成症の脳異常の発症プロセスを明らかにしました。

タナトフォリック骨異形成症は主に骨と脳に異常を持つ希少疾患で,有効な治療法のない厚生労働省の指定難病です。骨では手足の骨や肋骨の短縮が見られ,脳では多小脳回(※1,図1)や脳室周囲結節性異所性灰白質(※2,図2 以下PNHと記載)などの異常が見られます。タナトフォリック骨異形成症は稀な疾患であり,またヒトのサンプルを入手することが難しいことから,発症に至るプロセスはあまり分かっていませんでした。

本研究グループはタナトフォリック骨異形成症の脳異常を再現できるモデル動物の作製を試み,2015年にイタチ科の高等哺乳動物フェレット(※3)を用いることで世界に先駆けてモデル動物の作製に成功しました。本研究では,このモデル動物を用いてタナトフォリック骨異形成症の脳異常の一つであるPNHの発症プロセスを解析しました。その結果,PNHは神経細胞の移動の異常により引き起こされ,移動の際に足場(=レール)として使われる放射状グリア(※4)の異常が原因(図3)であることが示唆されました。今後は,タナトフォリック骨異形成症の病態解明および治療法の開発が進むことが期待されます。さらにフェレットを用いた本研究を発展させることにより,従来のマウスを用いた研究では解明が困難だったさまざまな脳神経疾患の原因究明,治療法の開発が発展することが期待されます。

本研究成果は,米国の科学雑誌「Human Molecular Genetics」オンライン版に1月31日に掲載されました。なお,本研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

図1 大脳の表面に見られる正常な脳回(シワ)とその異常

左)正常なフェレットの大脳に見られる脳回。
 右)タナトフォリック骨異形成症のフェレットの大脳に見られる多小脳回。文字通り,小さな脳回が多く見られます。

図2 フェレットの大脳の断面図(白色は神経細胞の分布)

左)正常なフェレット大脳の断面図。神経細胞は大脳の表面を,地層のように分布しています。大脳の表面には脳回(シワ)があるために,神経細胞の層はうねっています。
 右)タナトフォリック骨異形成症のフェレットの大脳の断面図。脳の深部に,正常では見られない神経細胞の塊(PNH)が見られます(矢印)。また大脳の表面には,正常に比べて,小さい脳回が多く見られます(アステリスク)。

 

図3 本研究のまとめ

左)正常では,神経細胞は放射状グリアの足場に沿って脳表面まで移動します。
 右)タナトフォリック骨異形成症では,足場が脳表面に向かっていないために,神経細胞が脳表面にたどりつけずに,脳深部に神経細胞が残りPNHができると考えられます。

【用語解説】
※1 多小脳回
大脳の表面にはシワがあり,このシワは脳回と呼ばれます。タナトフォリック骨異形成症では脳回に異常が見られ,正常よりも小さい脳回が多く作られるために,多小脳回と呼ばれています。

※2 脳室周囲結節性異所性灰白質(PNH)
タナトフォリック骨異形成症の脳に見られる異常の一つ。正常では神経細胞は大脳皮質の表面に集積していますが,タナトフォリック骨異形成症では,通常はほとんど神経細胞が存在しない大脳皮質の深部に神経細胞が塊を作って存在しており,これを脳室周囲結節性異所性灰白質と呼びます。タナトフォリック骨異形成症で脳室周囲結節性異所性灰白質ができる仕組みはほとんど分かっていませんでした。図2参照

※3 フェレット
イタチに近縁の高等哺乳動物。マウスに比べて脳が発達しており,ヒトに近い構造の脳を持っているために今回の研究に採用しました。フェレットの脳を用いた遺伝子研究は世界的にもまだ少なく,本研究グループの特徴となっています。

※4 放射状グリア
胎児のなかで脳が作られる発生期に存在する細胞の一つ。神経細胞やグリア細胞を作り出すもととなる神経幹細胞の別名です。さらに,作り出された神経細胞が脳の表面に向けて移動する際の足場(=レール)としての役割もあります。図3参照

 

詳しくはこちら[PDF]

Human Molecular Genetics

研究者情報:松本直之

研究者情報:新明洋平

研究者情報:河﨑洋志

 

 

 

 

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