電子のスピンが生み出す巨大な熱電効果を予測

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理工研究域数物科学系の石井史之准教授,自然科学研究科大学院生の水田耀ピエールさんらの研究グループ(計算物性研究室)は,電子スピン(※1)の形成する渦構造の一種「スキルミオン(※2)」が巨大な熱電効果(※3)を生む可能性を計算機シミュレーションにより明らかにしました。

環境と調和したエネルギー活用の重要性が社会的に高まる中,身近にあふれた廃熱を電気として回収して利用する“熱電変換”に期待が集まっています。その効率を高める試みの中で,通常は専ら,物体に熱を与えて生じた温度差により起こる熱の流れ・電子の流れの方向に電圧が生じる「ゼーベック効果」が利用されていますが,同研究グループは温度差によって起こる熱の流れ・電子の流れの方向と垂直に電圧が生じる「ネルンスト効果」,その中でも外から磁場をかける代わりに電子スピンが生み出す“磁場”が引き起こす「異常ネルンスト効果」に注目。既存の研究において大きな異常ネルンスト効果の発現を予想させる結果が示されていた「スキルミオン結晶」のモデルについて詳細にシミュレーションすることで,異常ネルンスト効果の大きさを評価し,その効果を考慮して熱電係数を算出しました。

その結果,特別なフェルミ準位(※4)の場合に巨大な異常ネルンスト効果が現れ,それが大きな熱電係数を生むことを見出しました。また,一つ一つのスキルミオンの半径を大きくするほどそれが大きくなることも見出しました。これは,従来のゼーベック効果を使うよりも効率の良い熱電変換が実現する可能性を示しています。本研究は,実験からの情報に頼らず,固体の構造とその構成要素のみを用いて電子状態をシミュレーションしたものですが,スーパーコンピュータを更に大規模に活用することで, より複雑な現実的な物質に適用して同様の効果を調べることも可能となります。

本研究成果は,平成28年6月16 日午前10時(英国時間,日本時間平成28年6月16日午後6時)発行,英国ネイチャー出版グループのオンライン雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

なお,本研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金(新学術領域「ナノスピン変換科学」,若手研究(B), 基盤研究(C))およびMEXT HPCI戦略プログラム,金沢大学 先魁プロジェクトによる支援を受けて行われました。

【模式図】

160621模式図

 

※1 電子スピン:電子が, あたかも自転して生み出しているような性質。磁性の源の一つ。

※2 スキルミオン(図にその一種を示す):電子スピン(矢印で表される)たちが形成する渦構造。

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※3  熱電効果: 試料に温度差をつけると,電圧が生じる効果。熱の流れ・電子の流れと平行な方向に電圧が生じる場合をゼーベック効果,熱の流れ・電子の流れの方向 に対し垂直な方向に電圧が生じる場合をネルンスト効果と呼ぶ。

※4 フェルミ準位:低エネルギー側から見ていくときに,ぎっしり詰まっていた電子状態に空きが出はじめるエネルギーの指標となる値。結果中のμ0は,もともと入っていた電子の半分を抜き去った状態に対応する。

Scientific Reports

研究者情報:石井 史之

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