Aspiration#03 黒田浩介「0から1にしていく」

安全なイオン液体をつくる

理工研究域生命理工学系
准教授 黒田 浩介

新しいイオン液体の発見

近年、革新的な進歩がみられる再生医療分野では、生細胞や生体組織を長期保存できる「生体保存液」の開発が急務となっている。生命理工学系・黒田 浩介准教授は、本来の専門である化学の分野を超え、医学や生物学の研究者との異分野融合研究により、毒性の低い、これまでにないイオン液体を発見した。その原動力は、黒田准教授の「社会に貢献したい」という『志』である。

黒田准教授は、これまで専門である化学、特に分子設計の観点から、植物の主成分であるセルロースを溶かすイオン液体の開発に従事してきた。高性能で再生可能なイオン液体ができれば、溶媒としてバイオエタノール生産に役立てることができ、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献できる。その研究を進めるなかで、偶然、双性イオン液体(一つの分子中に正と負の電荷を同時に持つイオン)のなかに、極めて生体毒性が低いイオンがあることを見出した。

「イオン液体」のふしぎ

我々にとって、もっとも身近なイオンは食塩(塩化ナトリウム)であろう。生命の起源となった海水の主要成分であり、人間を含む様々な生命にとっても必要不可欠な物質である。食塩は室温では固体であるが、イオンのなかには、室温でも液体となる物質が存在する。これらが、黒田准教授が研究対象とするイオン液体だ。イオン液体は、上述のセルロースをはじめとして、様々な物質を溶解する「溶媒」として注目されており、燃料電池の電解液などへの応用研究も進められている。しかし、分子構造が複雑な化合物が多く、またそのほとんどが生体にとっては毒性の高い物質であることが知られている。黒田准教授は、正と負の双方の極性を持つ双性イオン液体「ツビッターイオン液体 (zwitterionic liquid)」に着目し、この中から毒性の低い化合物を見出した。「起きているときには、ずっと頭の中で分子が動いている」という黒田准教授だからこそ、新しい分子構造のイオン液体が発見できたのであろう。

新しいものをつくるには

「研究はおもしろくないといけない」と黒田准教授は学生に伝える。0(ゼロ)から1(イチ)をつくるには、自由な発想、デザイン力が必要である。さらに、それを100にも1000にもする原動力は、自身の分野を超えた異分野融合という。黒田研究室には自ら考え、行動でき、粘り強く研究に取り組める学生が揃っている。「世界に通用するには、失敗を恐れず、広い視点を持って研究に取り組むべき」、黒田准教授は、楽しみながら挑戦できる研究室づくりに邁進する。今後も黒田研究室から、新しいイオン液体が生み出され続けるであろう。

(サイエンスライター・見寺 祐子)

※双性イオン(zwitterion)とイオン液体(ionic liquid)から成る造語。Zwitterionは、ドイツ語で「2、双性」を意味するzwei、zwitterを語源とする英語

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