Aspiration#01 覺張 隆史「今までの考古学を変えていく」

古人骨DNAからのメッセージ

古代文明・文化資源学研究所
助教 覺張 隆史

ヒトの起源を紐解く

 きっかけは馬との出会い。幼少時に出会った馬という生物に興味を持ち,「日本で馬はいつから飼育されていたのか?」という疑問から覺張助教の研究は始まった。馬は世界中をどのように移動し,ヒトとどのように関わり合ってきたのか。世界中の遺跡では,人間が古くから馬と共に生活し,共に移動してきた痕跡が,人骨と共に発掘された埴輪や馬具などから明らかになってきている。いつしか,覺張助教の研究対象は,馬の移動だけでなく,馬と共にいたヒトの移動,進化へと移っていった。

 「人馬一体の進化研究」。その謎を解く強力なツールは,医学や生物学の分野で主に使われている“ゲノム解析”という手法だ。最新の技術では,世界中の遺跡から出土したヒトや馬の骨にわずかに残るDNAまでをも解読できる。「昔の病気が現代の人にも影響を与えているかもしれない」と覺張助教は語る。発掘されたヒトや馬の骨のゲノムデータから,遠い過去の人馬の「生き様」を調べることができ,「現代の病気の予防にも使えるかもしれない」という。

 「最大の研究パフォーマンスは,研究の楽しさから生まれる」。昔の人の生き様に思いを巡らせ,まるで生きているように復元できることが「直感的に面白い」。「発掘を中心とした考古学から,未来に活かす考古学へ」覺張助教の『志』は未来に貢献する新しい考古学を切り拓くことである。

「パレオゲノミクス」(=古ゲノム学)

 2022年のノーベル生理学・医学賞の受賞で注目されるようになった「パレオゲノミクス」という新しい分野。科学技術の進歩により,発掘された過去の生物の骨からごくわずかしか採取できないDNAを増幅することが可能となり,「パレオ」=「昔の、古い」,「ゲノミクス」=「ゲノムと遺伝子の研究」という分野が生まれた。“ヒトはどこからきて,どのように進化してきたのか” 誰もが一度は考えたことがある疑問だろう。遺跡から,歴史から,地質から,生物から,気候から・・・ 世界中の研究者たちがさまざまな角度から今も答えを探し続けている。覺張助教は,世界中の遺跡から出土した生物,特にヒトと馬の骨のゲノム(親から子へ受け継がれる遺伝情報のセット。DNAという物質として細胞に保存されている)を解析することに着目した。これまでの考古学で復元されたモノや情報とを照らし合わせて,昔の生活の復元だけでなく,ヒトの起源や病気の原因などを推測し,これまで眠っていた骨の「生き様」を蘇らせることを目指している。

研究のモチベーション

 覺張助教が研究に取り組むモチベーション(学術的な動機)は「面白さ」だ。将来,科学者を目指す若者には「“直感的に”楽しい,面白いと思う気持ちを大切にしてほしい」という。ゲノム解析でわかる遺伝子配列をただ記録するだけでなく「その遺伝子情報が,骨のこんな場所に残されていたのはなぜだろう?」「この時代にヒトはこんな病気にかかっていたのはなぜだろう?」など,DNAの情報から,見たことのない過去の時代にタイムトリップし,研究者としての素朴な疑問を持つことが,将来の大きな発見につながると語る。ゲノム解析は,現代の医学において無くてはならないツールになっている。覺張助教は,古代の骨のゲノム解析が,過去の病気の起源の謎を紐解くとともに,まだ見ぬ病気の予防に対して重要な鍵を握るのでは,と考える。従来の考古学の範疇を超えた覺張助教の研究は,未来を切り拓く研究として,医学をはじめさまざまな研究分野に波及していくことが期待される。

(サイエンスライター・見寺 祐子)

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