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Research NEWS

体内時計中枢の基本メカニズムを解明

医薬保健研究域医学系、教授
三枝 理博MIEDA, Michihiro

 金沢大学医薬保健学総合研究科医学専攻博士課程 4 年の王墨涵、医薬保健研究域医学系の三枝理博教授らの研究グループは、体内時計中枢である視交叉上核の神経ネットワークが頑強な概日リズムを生み出すための基本メカニズムを解明しました。

 ヒトを含む哺乳類では、昼夜の変化に対応して、睡眠や行動、体温、ホルモン分泌などが約 24 時間の周期で調節されています。このような 1 日のリズムは概日(サーカディアン)リズムと呼ばれています。概日リズムを生み出す体内時計の中枢は、脳の視床下部にある視交叉上核に存在します。視交叉上核は多種・多数の神経細胞からなる神経ネットワークですが、どのようにして強く安定した概日リズムを生み出しているのか、その詳しい仕組みはこれまで十分に分かっていませんでした。

 本研究では、視交叉上核の中で、バソプレシン(※1)を産生する神経細胞と血管作動性腸管ペプチド(※2)を産生する神経細胞が、互いに影響を及ぼし合うフィードバック回路を形成し、この細胞間のやり取りによって、約 24 時間周期の安定した概日リズムが生み出されていることが明らかになりました。

 時差を伴う旅行や交代制勤務、概日リズム睡眠覚醒障害(※3)などにより体内時計が昼夜の変化と合わなくなると、日常生活にさまざまな支障が生じます。そのため、概日リズムがどのように作られているのかを理解することは、健康を維持するうえで非常に重要です。本研究の成果は、将来、睡眠障害や自律神経の乱れ、メタボリックシンドロームなど、体内時計の乱れに起因するさまざまな疾患や健康障害の予防・治療につながることが期待されます。

 本研究成果は、2026 年 1 月 5 日に英国科学誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。

 

図:視交叉上核のフィードバック神経回路が強く安定した概日リズムを生み出す
 体内時計中枢である視交叉上核は、約二万の神経細胞からなる神経ネットワークであり、それぞれの細胞は、時計遺伝子による細胞内の時計分子メカニズム(TTFL)を持っている。視交叉上核が中枢時計として機能するために、TTFL は必要であるが、十分ではない。細胞内メカニズムに加えて、バソプレシン産生神経細胞と VIP 産生神経細胞が互いに影響し合う(フィードバック神経回路 SNFL を介した双方向性のコミュニケーション)ことで、強固で安定した約 24 時間周期の概日リズムを生み出している。

 

【用語解説】
※1 バソプレシン
 9 アミノ酸からなるペプチド。ヒトを含むほとんどの哺乳類のバソプレシンは第 8 番目のアミノ酸がアルギニンであることから、アルギニンバソプレシン(AVP)とも呼ばれる。抗利尿ホルモンとしての機能が良く知られており、視床下部から放出され腎臓での水の再吸収を増加させることで、利尿を妨げる働きをする。しかし、視交叉上核が産生するバソプレシンは、抗利尿ホルモンとしての役割は持たず,その役割の詳細は未知である。

※2 血管作動性腸管ペプチド(VIP)
 28 アミノ酸残基で構成されるペプチドホルモン。血管を広げて血液量を増やす作用を持つホルモンとして発見された。消化管、膵臓、脳の視床下部の視交叉上核を含む部位で産生される。視交叉上核において血管作動性腸管ペプチド陽性細胞は、網膜からの直接投射を受け、環境光によって概日リズムのタイミングを調節する機能を持っている。またこのペプチドを欠損することで、概日リズムが障害されることが明らかになっている。

※3 概日リズム睡眠覚醒障害
 体内時計に起因する覚醒と睡眠の周期やタイミングが、社会生活を送る上で望ましい時間帯からずれてしまう睡眠障害の総称。主なものに、4 ~ 5 時間以上の時差時間帯のフライトにより心身不調が起こる時差型(時差ぼけ)、交代勤務に起因する交代勤務型、早すぎる時間に目覚めてしまう睡眠相前進型、睡眠をとる時間が後退してしまう睡眠相後退型、周期が 24 時間からずれてしまう自由継続型がある。

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Nature Communications

研究者情報:三枝 理博

関連情報

金沢大学 医薬保健学域:https://www.kanazawa-u.ac.jp/collegeschool/30_mph/

金沢大学 大学院 医薬保健学総合研究科・医薬保健学域医学類:https://www.med.kanazawa-u.ac.jp/index.html

 

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