平成29年度 金沢大学学位記・修了証書授与式 学長告辞

掲載日:2018-3-22
学長メッセージ

本日ここに,平成29年度春季の学位記・修了証書授与式が挙行できますこと誠に慶賀に存じます。卒業生,修了生の皆さん,おめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。ご臨席のご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労に感謝と敬意を表し,併せてお慶びを申し上げます。

卒業生,修了生諸君にとって,学位記を手にする喜びはひとしおでありましょう。人間力と専門性を磨き,学士課程にあっては4年間あるいは6年間,大学院課程にあっては修士号,博士号あるいは専門職の学位を得るまでの間,自らの弛まぬ努力と研さんの積み重ねによって手にされたものであり,大いにたたえ,改めて祝意を表します。

日ごろから諸君を支えてこられたご両親やご家族,周囲の皆さんのお力添えに,恩師の導きに,そしてお互いに切磋琢磨した先輩,同輩や後輩に,本日は皆さんが改めて感謝する大切な機会でもあります。皆さんには幸せな人生を送る権利があり,また今日まで自分を育んでくれた周囲と社会,そしてコミュニティに感謝し,幸福な生活を営む義務があります。さらに地域と国,そして世界への貢献を果たさねばなりません。

さて,皆さんを取り巻く世界の状況は,今,大きな変革期を迎えています。世界では,米国が先導するIndustrial Internet,すなわち,すべての物をネットワークで結合してデータを得るIoT技術(Internet of Things)や,独国が進めるIndustry4.0,第4次産業革命を引き起こそうとする取り組みが,社会全体を巻き込んだ総力戦によって展開されています。日本政府が掲げる超スマート社会の実現Society5.0も含め,ビックデータと人工知能,AI,自動運転などによって,未来社会の実現に向けた新しいモノ造りやサービスの提供,新しいビジネスモデルが次々と生まれようとしております。これからは数理・データサイエンスの知識やスキルが問われる場面が頻発すると予想されています。AIと共に働く,そんな世界が眼前に迫っています。しかし,国内では次々に起こる日本を代表する大企業群の破綻によって,モノ造り大国であった日本の国際競争力が一段と低下し,少子高齢化問題をはじめ山積する課題が眼前に迫り,我が国の経済成長は今なお長期展望がのぞめず,先行き不安定な状況にあります。政府はようやく地方創生,地方大学の振興に真剣に向き合おうとしています。地方に存在する国立大学の果たすべき役割は大きいと考えます。

この厳しい社会に舟出する諸君が,これからの長い人生航路を迷うことなく進め,金沢大学の卒業生,修了生として誇りを持って活躍するための心得,未来への道標を3つ申し上げ,はなむけとします。

第1は,「将来の大きな夢と希望を描き,しっかりとした人生の到達目標を定め,それに向かって弛まぬ努力を日々重ねる」ことです。

人生の節目節目でその目標を少しずつ高く,大きくすることで,発展が期待でき,やがては大きな飛躍のチャンスが巡ってくるはずです。願わくは,社会やコミュニティに貢献できる目標,世界の諸課題に立ち向かう大きな目標を掲げ,チャレンジされることを期待します。若い君たちには無限の可能性,未来があるのです。自分を磨くために欠かせないのは,何事にも率先して挑戦する気構えです。そのためには,失敗を恐れてはいけません。失敗こそが何事にも替え難い人生の最大の財産です。そこからいろいろな物が見えてくるはずです。そして皆さんを成功へと導いてくれます。起業家精神,アントレプレナーシップによって新しい未来を切り拓いてくれることを大いに期待します!人生とは,自分を創り,夢を実現することです。

第2は,「生涯学び続ける努力を継続し,新しいことに果敢に挑戦する社会人を目指す」ことです。

金沢大学が諸君に与えることができた専門知識やスキル,そして課題解決能力と知恵は,これから皆さんが社会の荒波にもまれ,人生を切り拓いてゆく上で必要な社会人としての基礎,そして40年間,いや50年間腐ることのない専門基礎力,学問の基本です。

学ぶこと,学問することは,大学や大学院を終えたら,それで終了するのでは決してありません。今までに身に付けた基礎力をベースに,学ぶべきはむしろこれからです。生涯学び続ける気構えと継続的な努力が,これからの皆さんの将来の成否を左右します。変わらぬ基礎を大切にしながらも,常に進化し続ける流行,最先端の知識とスキルを取り入れることも忘れてはなりません。自分の専門知識,専門分野と視野を徐々に広げ,他の人とは違う,誰にも負けない自分を磨き続けていただきたい。それが,やがては皆さん自身の個性,他の人とは違う個別の強みとなるはずです。

そして第3は,「グローバルな人材として活躍するために,人間力を磨き続け,社会の一員,組織の中核を担うリーダーを目指す」ことです。

もちろん,専門力は大切ですが,それだけでは自分が向かうべき大きな方向性を定めることはできませんし,人間的な魅力なくしてグループや組織を率いることはできません。十分な教養がないと時には重要な選択,決定を誤る危険性すらあります。世界を舞台に活躍したい諸君も,地域コミュニティに貢献したい諸君も,総合的な人間力とコミュニケーション力を鍛えることが大切です。国際コミュニケーション力をさらに磨き,そして交渉力を研ぎ澄ませてください。高度な専門性に裏打ちされた広い視野と創造力,経験に基礎をおく実践力,さらに他人を率いる統率力,それらが皆さんの未来を切り拓いてくれるはずです。社会の一員として,優しさと厳しさを合わせ持ち,他人の苦しみや悲しみが理解できる,深みのある人間として成長していただきたい。

特に大学院修了生諸君にあっては,世界の発展を支える中核リーダーとしての役割が期待されています。進歩の激しい科学技術,そして劇的な変化を遂げ続ける現代社会,変革とイノベーションでその変化に適応せねばなりません。常に求められる変革に追従できる能力,それがこれからのリーダーに求められる中核的な能力です。体力と精神的なタフネスを背景に,変革に適応できる人間力を磨くことが人生を極めるための解決策と私は信じます。

だれもが裕福で幸せな生活を営みたい!と願うのは当然です。しかし,自分や自分の家族だけが良くても,豊かで安らぎのある社会の実現,未来は望めません。常に人のために何ができるか?自分の住むコミュニティにどんな貢献ができるか?社会のためにどんな役割が果たせるかを価値判断の中心に据え,立派な社会人に成長してほしい。長い人生航路の岐路に立ったとき,その価値観が決断の重要な道標となるはずです。

皆さんの母校,金沢大学は,その存在感を世界に誇示し,地域の持続的な発展に貢献するため常に進化し続けています。平成28年度から始まった国立大学の第3期中期目標期間中に実施される運営費交付金(大学の経常運営費)の3つの重点支援枠から,「重点支援③ 卓越した成果を創出している海外大学と伍して,全学的に卓越した教育研究,社会実装を推進する大学」,いわゆる世界卓越型を選択し,研究力強化に邁進しております。昨年10月には文部科学省が推進する世界トップレベルの国際研究拠点形成プロジェクト,WPIに採択され,ナノ生命科学研究所を設立しました。これから10年間かけて細胞の表面や内部の動態,ダイナミックスを観察するナノ内視鏡を開発し,ナノプローブ生命科学の創出を目指すものです。これは国際通用性ある大学院教育の高度化・研究者養成の強化,新領域・融合分野形成,国際ネットワーク構築などを通して世界トップクラスの教育研究拠点の形成を目指すものです。大学は引き続き「地域に愛され,世界に輝く金沢大学」の実現に向け努力し続けます。今後は,金沢大学の応援団として本学の発展に支援をお願いします。

最後になりますが,皆さんと母校,金沢大学の関係はこれで終わるのではなく,むしろこれから始まるのです。専門分野の社会的,あるいは技術的な課題解決で困ったとき,人生の岐路に立ちその進路に迷ったとき,是非とも母校,恩師を訪ねてください。大学,研究室を介した先輩,後輩とのネットワーク,専門分野別の同窓会,そして金沢大学学友会など,同窓会ネットワークが仕事の上でも必ずや役に立つはずです。是非大切にしてください。

最後に,マハトマ・ガンジーの名言「明日死ぬと思って生きよ!不老不死と思って学べ!」をはなむけとして贈ります。

諸君が健康で幸せな人生に恵まれ,金沢大学で学んだこと,金沢大学の卒業生,修了生であることに誇りを持ち続け,活躍をしてくれることを祈念し,告辞とします。

平成30年3月22日         

 金沢大学長 山崎 光悦

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