平成28年度 金沢大学学位記・修了証書授与式 学長告辞

掲載日:2017-3-22
学長メッセージ

本日ここに,平成28年度春季の学位記・修了証書授与式が挙行できますこと誠に慶賀に存じます。卒業生,修了生の皆さん,おめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。ご臨席のご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労に感謝と敬意を表し,併せてお慶びを申し上げます。

卒業生,修了生諸君にとって,学位記を手にする喜びはひとしおでありましょう。人間力と専門性を磨き,学士課程にあっては4年間あるいは6年間,大学院課程にあっては修士号,博士号あるいは専門職の学位を得るまでの間,自らの弛まぬ努力と研さんの積み重ねによって手にされたものであり,大いにたたえ,あらためて祝意を表します。

本日は,日ごろから諸君を支えてこられたご両親やご家族,周囲の皆さんのお力添えに,恩師の導きに,そしてお互いに切磋琢磨した先輩,同輩や後輩に,皆さんがあらためて感謝する大切な機会でもあります。皆さんには幸せな人生を送る権利があり,また今日まで自分を育んでくれた周囲と社会,コミュニティに感謝し,幸福な生活を営む義務があります。さらに地域と国,そして世界への貢献を果たさねばなりません。

さて,皆さんを取り巻く世界の状況は,大きな変革期を迎えています。民族対立と移民問題など国際情勢は激動し,頻発する国際テロによって世界の平和が脅かされる中,英国のEU離脱をはじめ,米国トランプ大統領の出現など,ポピュリズム,大衆迎合主義が蔓延し,持続的な発展を阻害する地球規模の多くの課題に直面していることをあらためて認識せねばなりません。国内では東日本大震災からの復旧・復興の最中,さらに熊本地震にみまわれ,国土の再興にはまだまだ幾多の年月を要するでありましょう。また次々に起こる日本を代表する大企業群の破綻によって,モノ造り大国であった日本の国際競争力が一段と低下し,少子高齢化問題をはじめ山積する課題が眼前に迫り,わが国の経済成長は今なお長期展望がのぞめず,先行き不安定な状況にあります。

この厳しい社会に船出する諸君が,これからの長い人生航路を迷うことなく進め,金沢大学の卒業生,修了生として誇りを持って活躍するための心得,未来への道標を3つ申し上げ,はなむけとします。

第1は,「将来の大きな夢と希望を描き,しっかりとした実現性のある人生の目標を定め,それに向かって弛まぬ努力を日々重ねる」ことです。

人生の節目,節目でその目標を少しずつ高く,大きくすることで,発展が期待でき,やがては大きな飛躍のチャンスが巡ってくるはずです。願わくば,社会やコミュニティに貢献できる目標,世界の諸課題に立ち向かう大きな目標を掲げ,チャレンジされることを期待します。

若い君たちには無限の可能性,未来があるのです。まだまだ自分では気付いていないいろいろな素質,可能性を誰もが持っています。その素質を磨く機会,自己能力開発をとおして,新しい世界が開けると確信します。自分を磨くために欠かせないのは,何事にも率先して挑戦する気構えです。そのためには,失敗を恐れてはいけません。失敗こそが何事にも替え難い人生の最大の財産です。そこからいろいろな物が見えてくるはずです。そして皆さんを成功へと導いてくれます。人生とは,自分を創り,夢を実現することです。

第2は,「生涯学び続ける努力を継続し,新しいことに果敢に挑戦する社会人を目指す」ことです。

金沢大学が諸君に与えることができた専門知識やスキル,そして課題解決能力と知恵は,これから皆さんが社会の荒波にもまれ,人生を切り拓いてゆく上で必要な社会人としての基礎,そして40年間,いや50年間腐ることのない専門基礎力,学問の基本です。

学ぶこと,学問することは,大学や大学院を終えたら,それで終了するのでは決してありません。世界では今,米国が先導するIndustrial Internet,すなわち,すべての物をネットワークで結合してデータを得るIoT(Internet of Things)技術や,独国が進めるIndustry4.0,第4次産業革命を巻き起こす取り組みが,社会全体を巻き込んだ総力戦によって展開されています。日本政府が掲げる超スマート社会の実現Society5.0も含め,ビックデータと人工知能,AI,自動運転などによって,未来社会の実現に向けた新しいモノ造りやサービスの提供,新しいビジネスモデルが次々と生まれようとしております。これからは数理・データサイエンスの知識やスキルが問われる場面が頻発すると予想されています。AIと共に働く,そんな世界が眼前に迫っています。

今までに身に付けた基礎力をベースに,学ぶべきはむしろこれからであります。生涯学び続ける気構えと継続的な努力が,これからの皆さんの将来の成否を左右します。学問,専門分野は常に進歩を続けています。変わらぬ基礎を大切にしながらも,常に進化し続ける流行,先端の知識とスキルを取り入れることも忘れてはなりません。自分の専門知識,専門分野と視野を徐々に広げ,来るべきときに備えてください。他の人とは違う自分を見つけ,磨き続けていただきたい。それが,やがては皆さん自身の個性,他の人とは違う個別の強みとなるはずです。時には型破りでもいい。他の人や世間とは異なった常識ハズレ,尖った個性が,新発見や革新へと皆さんを導いてくれます。異分野融合こそ,革新,イノベーションの源泉であると私は信じます。

そして第3は,「グローバルな人材として活躍するために,人間力を磨き続け,社会の一員,組織の中核を担うリーダーを目指す」ということです。

もちろん,専門力は大切ですが,それだけでは自分が向かうべき大きな方向性を定めることはできませんし,人間的な魅力なくしてグループや組織を率いることはできません。十分な教養がないと時には重要な選択,決定を誤る危険性すらあります。世界を舞台に活躍したい諸君も,地域コミュニティに貢献したい諸君も,総合的な人間力とコミュニケーション力を鍛えることが大切です。金沢大学は平成26年度に文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」(SGU)に採択され,10年間かけてグローバル人材の育成のための教育改革とそのための徹底した国際化を進めています。皆さんも国際コミュニケーション力をさらに磨き続け,そして交渉力を研ぎ澄ませてください。高度な専門性に裏打ちされた広い視野と創造力,経験に裏打ちされた実践力,さらに他人を率いる統率力,それらが皆さんの未来を切り拓いてくれるはずです。社会の一員として,優しさと厳しさを合わせ持ち,他人の苦しみや悲しみが理解できる深みのある人間として成長していただきたい。

特に大学院修了生諸君にあっては,世界の発展を支える中核リーダーとしての役割が期待されています。進歩の激しい科学技術,そして劇的な変化を遂げ続ける現代社会,変革とイノベーションでその変化に適応せねばなりません。常に求められる変革に追従できる能力,それがこれからのリーダーに求められる基本的かつ核心的な能力であると予測します。体力と精神的な強さをバックに,変革に適応できる人間力を磨くことが人生を極めるための解決策と私は信じます。

本学は,「金沢大学<グローバル>スタンダード」KUGSに掲げる,「自己の立ち位置を知る」「自己を知り,自己を鍛える」「考え・価値観を表現する」「世界とつながる」,そして「未来の課題に取り組む」という5つの能力を,本学が送り出すすべての卒業生が備えることを実現するために,新たに国際基幹教育院を昨年4月に設置し,GS科目の教育をスタートさせました。

誰もが裕福で幸せな生活を営みたい!と願うのは当然です。しかし,自分や自分の家族だけが良くても,豊かで安らぎのある社会の実現,未来は望めません。常に人のために何ができるか?自分の住むコミュニティにどんな貢献ができるか?社会のためにどんな役割が果たせるかを価値判断の中心に据え,立派な社会人に成長してほしい。長い人生航路の岐路に立ったとき,その価値観が決断の重要な道標となるはずです。

皆さんの母校,金沢大学はその存在感を世界に誇示し,地域の持続的な発展に貢献するため常に進化し続けます。金沢大学は,平成28年度から始まった国立大学の第3期中期目標期間中に実施される運営費交付金の3つの重点支援枠から,「重点支援③ 卓越した成果を創出している海外大学と伍して,全学的に卓越した教育研究,社会実装を推進する大学」,いわゆる世界卓越型を選択しました。これは国際通用性のある人材育成,大学院高度化・研究者養成の強化,新領域・融合分野形成,国際ネットワーク構築などをとおして世界一流の教育研究拠点の形成を目指すことを宣言したものです。大学は引き続き「地域に愛され,世界に輝く金沢大学」の実現に向け努力することを約束します。今後は,金沢大学の応援団として本学の発展に支援をお願いします。

皆さんと母校,金沢大学の関係はこれで終わるのではなく,むしろこれから始まるのです。これからも,専門分野の社会的,あるいは技術的な課題解決で困ったとき,人生の岐路に立ちその進路に迷ったとき,是非とも母校,恩師を訪ねてください。大学,研究室を介した先輩,後輩とのネットワーク,専門分野別の同窓会,そして金沢大学学友会など,同窓会ネットワークが仕事の上でも必ずや役に立つはずです。是非大切にしてください。

最後に,クリントン元米国大統領にも大いに影響を与えたアンソニー・ロビンスの言葉を贈ってはなむけとします。

When everything seems to be going against you, remember that the airplane takes off against the wind, not with it!

(全てが諸君にとって向かい風のように見えるとき,思い出してほしい。飛行機は追い風ではなく,向かい風によって飛び立つのだということを!)

諸君が健康で幸せな人生に恵まれ,金沢大学で学んだこと,金沢大学の卒業生,修了生であることに誇りを持ち続け,金沢大学の歴史に新たな1ページを刻む活躍をしてくれることを祈念し,告辞とします。

平成29年3月22日         

 金沢大学長 山崎 光悦

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