平成14年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

掲載日:2002-4-7
学長メッセージ

平成14年4月7日 金沢市観光会館

本日ここに1,939名の新入生を迎え,平成14年度金沢大学入学式が挙行されましたこと,誠に慶賀に存じます。新入生の皆さんおめでとうございます。本学への入学を心より歓迎いたします。金沢大学は,文久2年(1862年)の加賀藩の彦三種痘所を源流として,昭和24年(1949年)に新制の総合大学として設立されました。これまで約7万人の卒業生を輩出し,我が国の高等教育と学術研究の発展に大きな貢献を果してまいりました。そして53年の歴史を歩んだ今,諸君の入学した金沢大学は大きく変わろうとしています。

戦後の我が国の教育システムは,初等・中等・高等教育の課程を6・3・3・4年制とする,単線型でかつ画一的な仕組に設計されました。国民に対する教育の機会均等は,高校の進学率を98%,短大・大学を50%とする世界に類を見ない教育基盤を確立し,これによって我が国は驚異的な高度経済成長を遂げました。しかし,「ジャパン・モデル」ともてはやされた80年代の我が国経済は,グローバル化の流れの中で失速し,企業にあっては倒産や,リストラなど,今も低迷し続けているところです。 「失われた10年」と呼ばれる90年代は,まさにグローバル化による経済の流れの大きな転換期であったと言えましょう。西洋に追いつき追い越せの戦略はもはや通用しませんし,人類が成長の限界にある国際社会において,大切なのは協調的競争です。相手を理解し自己を主張する協調的競争こそ21世紀に問われることであり,それは熾烈な競争と言えましょう。

 我が国では今,多くの構造改革とともに教育改革,大学改革が進められており,その一環に国立大学の法人化があります。法人化の意図するところは,大学運営に対する国の関与を減らし,自主・自律と多様な個性を持つことで,学術文化の創造と継承を担う高等教育の活性化を促すことにあります。そしてそこでは,大学における教育,研究,社会貢献などの実績が評価され,それによって運営資金が配分される競争原理が導入されることになります。

このような競争は諸君にも求められます。諸君を待ち受けている社会は,学歴,終身雇用,年功序列といった日本型の雇用形態はもはや成り立たず,能力と実力主義にもとづく競争社会です。「エンプロイアビリティ」という言葉が使われ始めていますが,これは雇用のemployと能力のabilityの合成語です。企業の倒産やリストラが続くなかで転職もあり得ましょうが,諸君の職業や進路を自ら決定していくキャリアプランのためにも,エンプロイアビリティが求められることになりましょう。

 本学は今,学生諸君がそれぞれの個性を高め,真に実力をつけるための教育の在り方を中心に,大学改革を積極的に進めています。そのために大学そして教官は何をすべきか,また学生はどのように学ぶべきかを議論し,できるところから実行に移しているところです。教官がなすべきことをファカルティ・ディベロップメントFD,学生自らが努力することをスチューデント・ディベロップメントSDと呼んでいますが,教育の主体が学生にある以上,SDこそ重要であることは言うまでもありません。

 スチューデント・ディベロップメントは,諸君がこれから大学で学び,友人と付き合い,4年間の学生生活を送ることで自己を発達形成させることです。このようなSDの場には学業空間,生活空間,社会文化空間があります。学業空間は,諸君が講義を受け,また自ら学習し,必要な単位を採ることで教養や専門に関わる知識と能力を獲得する場です。諸君はまた,県民・市民として生活することで,社会の規範を学び行動することになります。アルバイトやボランティアの活動は,市民としての擬似的な社会体験であり,これらはすべて生活空間で培われることになります。そして社会文化空間では,読書や趣味を通して知の情報との触れ合い,キャンパスでのサークル活動や市民団体と交流し,さらには土地の歴史や文化を体験していただきたいと存じます。

これまでの初等・中等教育の時代は,流れに喩えれば,学習指導要領などで拘束された狭い管路の流れであり,それは一人一人の粒子が整然と揃った層状の流れです。管路が拡大する大学では,それまで抑えられていた粒子のゆらぎが一挙に増幅され,乱れた流れとなります。諸君は,学業,生活,社会文化の空間で,一人一人に潜在する素質を発現させ,自己の形成に努めていただきたい。そしてそれらを集合したアクティビティの高いタフな流れとすることで,我が国を21世紀の国際社会に貢献し主張できる国とすることを期待します。

 角間の山々や小立野台地の草木が萌動し,浅の川は蒼き流れをたたえて,諸君の今日の入学を歓迎しています。伝統と歴史を維持し,新しい学術・文化が発展する学都・金沢で学ぶことを誇りとし,自分たちの努力に大学の発展があることを自覚し,美しく実りのある青春の時を刻んでいただきたい。このことを祈念し告辞といたします。

平成14年4月7日
金沢大学長 林 勇二郎

 
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