金沢大学新学術創成研究機構の Hao Wenhui 博士研究員(新学術創成研究科修了)と理工学域生命理工学類4年の山田駿悟、新学術創成研究機構の柘植陽太准教授の研究グループは、静岡県立大学の原清敬教授の研究グループと共同で、微生物の精密発酵技術(※1)により、農業副産物である廃糖蜜(モラセス)(※2)から高純度のビタミン A化合物(レチナール)を生産する技術の開発に成功しました。
レチナールはレチノイド(※3)の一種であり、近年、スキンケア分野において注目を集めている美容有効成分です。現在、同じレチノイド化合物であるレチノールが、シワ改善やハリ向上、コラーゲン産生促進などのエイジングケア用途で広く利用されていますが、レチナールはより低容量で高い効果が得られることが報告されており、その特性から関心が高まっています。一方で、レチナールを含む現在流通しているレチノイド化合物は、石油由来原料を用いた化学合成によって製造されており、持続可能性の観点から課題がありました。
本研究では、アミノ酸の工業生産菌として使用されているコリネ型細菌(※4)を合成生物学的手法により改変することで、レチナール生産株を作製しました。さらに、有機溶媒を用いた二相培養法(※5)を導入することで、レチノールやレチノイン酸などの他のレチノイドを含まない、高純度レチナールの発酵生産を実現しました。最終的に、農業副産物である廃糖蜜を原料とした培地を用い、2.5 L 発酵槽スケールにおいて 104.9 mg/L(有機相中で 2,099 mg/L)というレチナール生産量を達成しました。
これらの知見は将来、再生可能資源を活用した環境配慮型の次世代スキンケア原料の発酵生産に向けた基盤の一つとして活用されることが期待されます。
本研究成果は、2026 年 2 月 22 日に国際学術誌『Bioresource Technology』のオンライン版に掲載されました。

図:(A)レチナール合成の代謝経路と(B)野生株、リコピン、β-カロテン、レチナー ル生産株の色。
【用語解説】
※1 精密発酵技術
遺伝子工学や合成生物学の手法を用いて微生物の代謝経路を設計・改変し、特定の目的物質を高選択的に生産させる発酵技術。従来の発酵が「微生物の自然機能の活用」であるのに対し、精密発酵は目的分子を狙って設計する点に特徴があります。
※2 廃糖蜜(モラセス)
さとうきびや甜菜から砂糖を精糖する時にできる農業副産物で、高濃度の糖液やビタミンを含んでおり、微生物の培地成分として利用できます。
※3 レチノイド
ビタミンA化合物の総称であり、本研究のレチナールやビタミンAであるレチノール、レチノイン酸などが含まれます。
※4 コリネ型細菌
日本で発見された代表的な物質生産菌。グルタミン酸やリジンなどのアミノ酸の工業生産に使用されており安全性が高い菌です。
※5 二相培養法
水相(培地)と有機相の混ざり合わない二つの液相を同時に用いる微生物の培養方法。微生物は水相で増殖し、レチナールなどの脂溶性化合物は細胞内から有機相に移行することで、反応場での細胞外への抽出が可能になります。
ジャーナル名:Bioresource Technology
研究者情報:柘植 陽太
関連情報
金沢大学 新学術創成研究機構:https://infiniti.adm.kanazawa-u.ac.jp/
金沢大学 理工学域 生命理工学類:https://www.se.kanazawa-u.ac.jp/lifescience