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Research NEWS

Netrin-1 が B 型肝炎ウイルスの感染を抑制する機序を解明

医薬保健研究域保健学系、教授
本多 政夫HONDA, Masao
2025/12/24

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 金沢大学医薬保健研究域保健学系の本多政夫教授、金沢大学医薬保健学総合研究科保健学専攻博士後期課程 3 年の王頴、医薬保健研究域保健学系の村居和寿助教、医薬保健研究域医学系の山下太郎教授らの研究グループは、宿主因子ネトリン 1(Netrin-1(※1))が B 型肝炎ウイルス(HBV(※2))の感染を抑制する機序を解明しました。

 2022 年の WHO の統計によると、HBV 持続感染者は世界で約 2.5 億人とされ、新規感染者は年間 120 万人、死亡者は年間 110 万人であり、ほとんどが肝硬変や肝がんによる死亡とされています。現行の治療法では、HBV を完全に排除することは極めて困難です。

 本研究では、従来、神経細胞のガイダンス分子として知られてきたタンパク質「Netrin-1」が、肝細胞への HBV 感染を阻害する新たな機能を持つことを明らかにしました。

 これまで、本研究グループは血管内皮リパーゼ(LIPG(※3))が HBV の細胞侵入を促進する宿主因子であることを報告しており、その後の研究で Netrin-1 が LIPG と相互作用し、組換え Netrin-1 が HBV 感染を抑制することを見出しました。

 今回の解析では、Netrin-1がHBV感染過程において果たす役割を詳細に検証しました。その結果、Netrin-1 は HBV の細胞内侵入(エントリー)過程の異なる 2 つの段階を独立して阻害することが分かりました。一つは、ウイルスの細胞表面への付着を助ける LIPGを阻害する経路、もう一つは、ウイルスの細胞内取り込みに必須である上皮成長因子受容体(EGFR(※4))を阻害する経路です。

 つまり、Netrin-1 は、ウイルスの付着と細胞内取り込みの 2 段階のステップを阻害することで、HBV 感染を効果的に抑制していることが示されました。

 これらの知見は、Netrin-1 の新たな抗ウイルス作用を明らかにしたものであり、将来 B 型肝炎の新規治療薬の開発に活用されることが期待されます。

 本研究成果は、2025 年 12 月 17 日 14 時(米国東海岸標準時間)に米国科学誌『PLOS Pathogens』のオンライン版に掲載されました。

 

 

〔本研究の概念図〕
Netrin-1 は、LIPG を介した肝細胞への付着と EGFR による細胞内取り込みの双方を抑えて、HBV の侵入を阻止する

 

 

【用語解説】

※1:ネトリン 1(Netrin-1)
 神経系の軸索誘導因子として知られる分泌タンパク質。近年、免疫制御や炎症、感染症に関与する多面的な生理作用が報告されている。

※2:B 型肝炎ウイルス(HBV:Hepatitis B Virus)
 B 型肝炎を引き起こすウイルスで、主に肝細胞に感染する。感染後、ウイルスゲノムDNA は核内で cccDNA と呼ばれる安定な構造に修復され、エピソームに存在し、持続感染する。肝硬変や肝がんの原因となる。

※3:血管内皮リパーゼ(LIPG:Endothelial Lipase)
 エンドセリンリパーゼとも呼ぶ。血管内皮を中心に発現するリパーゼで、リン脂質代謝に関与する酵素。近年、HBV 感染を促進する 新規宿主因子 として本研究グループが同定した。LIPG は HSPGs と NTCP の間の橋渡しを行い、HBV の細胞表面への安定した付着を促進する。

※4:上皮成長因子受容体(EGFR:Epidermal Growth Factor Receptor)
 細胞表面の受容体型チロシンキナーゼで、細胞増殖・分化に関わる。最近の研究により HBV の 細胞内取り込み(internalization)を促進する補助因子 として機能することが明らかになった。ウイルスのエンドサイトーシスを駆動する。

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プレスリリースはこちら

ジャーナル名:PLOS Pathogens

研究者情報:本多 政夫

 

 

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