平成13年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

平成13年4月7日 金沢市観光会館

本日ここに,1941名の新入生を迎え,平成13年度金沢大学入学式が挙行されましたこと,誠に慶賀に存じます。新入生の皆さん,おめでとうございます。心からお祝を申し上げます。

諸君が入学された金沢大学の歴史は,大きく3つの時期に分けて次のように言うことができましょう。第一期は,文久2年(1862年)加賀藩の種痘所にはじまり,明治7年の石川師範学校,明治20年の第四高等学校,大正9年の金沢高等工業学校など,今の本学の母体となっている高等教育の学校群が,天下の書府と呼ばれた石川県加賀藩の歴史を引継ぎ,我が国の近代化に大きく貢献した時期です。第二期は,昭和24年(1949年)にこれらの学校が統合され新制の総合大学となり,高等教育と学術研究の深化・拡大によって,現在ある我が国の発展をもたらした時期です。日本海側の基幹大学として,50有余年にわたり約7万名の卒業生を輩出しており,今も各界で大勢の先輩達が活躍しているところです。そして今,本学は第三期に突入しています。21世紀を迎えた本学は,「人類の知的遺産の継承と革新を目指し,地域と世界に開かれた大学」を基本理念とし,学部教育の充実と大学院を重点化した総合大学として,新しい一歩を踏み出そうとしています。

21世紀は,ますます加速するグローバライゼーションと,それに流されまいとするローカライゼーションが競合する時代です。グローバル化を促進しているのは,政治やイデオロギーの壁を低くする国の成熟であり,地球空間を縮小する科学技術の発達であり,さらには環境問題などに見られる地球市民としての意識の向上でありましょう。そして,この傾向は今後一段と強くなるはずです。歴史学者の木村尚三郎氏はこのようなグローバル化を評して,現代人は時間の概念が薄れ,空間人として生きはじめているとしています。電子商取引き,地方の国際空港,眠らない都市などはその例であり,そこには時間によらないグローバルな活動空間が生じつつあります。

他方,ローカライゼーションは,民族,宗教,言語などに依拠した国や地方の個性化であり,地球が存続するためには,このような文化の個性こそ大切と言えましょう。文化に厚さと深みがあり,かつそれが多様であることが,地球が強い生命体であるための条件です。しかし,このようなローカライゼーションは,グローバルな流れに埋没しかねない状況にあります。EU圏がキリスト教文明を基盤としてアメリカ合衆国とは異なる一つの連合体を形成しつつあるのも,これに対する新たな動きと言えましょう。そして,我が国は先進諸国の中で,一人孤高を維持しています。コソボやアルバニアに見られるような民族紛争,中東におけるような宗教の対立,朝鮮半島などのように国境に関る問題もなく,温暖な気候と豊かな自然に恵まれた平和な国です。

しかし,平和で安定であったが故に,グローバル化の流れでこれまでの脆弱さが曝けだされ,今や,政治,経済,外交,そして教育においてさえもいろいろな問題が吹き出しており,そのため行財政改革や教育改革など,体制の見直しが進められているところです。なかでも国の危機管理の甘さや,国民一人ひとりの公に立つ意識の低さは,極めて深刻な問題でありましょう。21世紀は,このようなグローバライゼーションとローカライゼーションを共存させることが人類の責務であり,本学の理念「地域に根ざし,世界に開く」は,まさにここにあります。

諸君はこのような時代に大学に入学されました。4年間を本学で学び金沢の町で生活することで,高度な専門知識,様々なスキル,パブリックな倫理観を身につけ,さらには公に立って物事を考える力と課題を探求する能力を培うことになります。英語をはじめとした外国語や情報リテラシーなどの共通的なスキル,環境や資源問題に対する倫理観は,空間人であるがために必修のものでしょう。他方,広い視野をもち公に立って物事を考える力や,新しい知を創生するための課題探求能力は,国や地方の個性を輝やかせるうえで不可欠であり,これにはむしろ時間人であることが問われることになりましょう。

これまで我が国の大学生は,4年間の青春を謳歌することが社会人となるための準備であるとし,必ずしも勉学に熱中して来なかったきらいがあります。しかし,これからの我が国では,企業における年功序列や終身雇用の制度はもはや維持できませんし,学歴社会も崩壊しつつあります。このような時代にあって,諸君は学問に真剣に取り組まなければなりません。そして,部活動を通じてキャンパスライフを楽しみ,規則を順守した住民,市民として日常生活を送っていただきたい。大学生活4年の計は入学の今にあります。世界の情勢,日本の状況を正しく読み取り,時間人として空間人として,自分は何をすべきかを真摯に追求していただきたいと存じます。

角間キャンパスでは草木が萌動し,兼六園の桜の花がほころび,諸君の今日の入学を歓迎しています。伝統と歴史を維持し,新しい学術・文化が発展する学都・金沢で学ぶことを誇りとし,美しく実りのある青春の時を刻まれることを祈念し,告辞といたします。

平成13年4月7日
金沢大学長 林 勇二郎

 
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