平成14年度 金沢大学学位記・修了証書授与式学長告辞

平成15年3月22日 金沢市観光会館

本日ここに,平成14年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されましたこと誠に慶賀に存じます。ただいま学部卒業生1,891名,大学院修了生687 名,専攻科13名,別科26名の方々に学位記および修了証書を授与いたしました。卒業生,修了生の皆さんおめでとうございます。心からお祝を申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労に感謝し,併せてお喜びを申し上げます。

諸君は,4年間さらには大学院の期間を本学で学び,金沢の街で生活し,多くの友人と親しみ,自己の形成に努められました。卒業にあたり,このことに誇りと自信を持って,またこれまでお世話になった方々への感謝の気持を忘れずに,新たな一歩を踏み出していただきたいと存じます。

さて,世界は今,イラク戦争を目の当たりにし,強い憤りと悲しみの中にあります。第二次世界大戦後の世界は,自由主義と社会主義の二極が対立し,緊張と牽制をもって一定の秩序が維持されてきました。そして,冷戦が終結することで,世界は平和に向けた対話の道を歩み始めたはずでした。

イラク戦争は,このような国際社会に,新たに複雑で不安定な構図を創り出そうとしています。いち早く戦後処理が取り沙汰され,日本政府もこのことに積極的な対応を示していますが,今後はイラクと同様に全体主義国家体制をとる北朝鮮問題はどうなるのか,これまで営々と築いてきた国際協調の秩序をどのように回復するのか等,問題は山積しています。そして,そこではアメリカは当然のこと,それに追随する我が国の威信と姿勢が改めて問われることになりましょう。

人類は今,環境,資源,人口など,すべてが危機的な状態に直面しています。国はもとより一人一人の個人でさえ,地球規模でモノを考え,コトを運ばざるを得ませんし,またこのようなグローバリゼーションの影響は避けられません。グローバル化は市場経済にも浸透し,国家間の競争を激化させています。これまで日本はモノづくり大国を自負してきましたが,その拠点は中国に移りつつあります。21世紀の人類には,地球市民としての共通認識と,国家の一員としての立場の両立が求められていると言えましょう。

諸君は,このような時代に社会への一歩を踏み出そうとしています。卒業にあたり,日本人として,また日本という国が,世界の中でどのような場所にいるのか,今何をしようとし,何をしなければならないかを,真剣に考えていただきたいと存じます。

地球上の温帯域で,四方を海に囲まれた日本列島は,穏やかに四季が移ろう自然豊かな国です。世界の古代文明は,メソポタミア,中国,エジプト,南米のアンデスの地で発祥しましたが,中でも豊かに発達したのが東西に拡がりをもつユーラシア大陸であり,その東のはずれに日本は位置しています。このように何事にも直接的に干渉されてこなかった我が国は,個性的で独自の文明文化を築いてきたと言えましょう。

しかし今や,環境影響物質が海や空を超え,大量の情報がネットを通して持ち込まれ,企業の国際活動は人と物の流れを加速しています。このように,すべてにグローバリゼーションが進展する時代にあって,島国の独尊はもはや通用しませんし,他国のことは知らないでは済まされません。

諸君は,大学という学問の自由の場で,専門の知識を身に付け,物事を総合的に捉えるアプローチの仕方を学びました。これからは,地球人として日本人として,広い視野で物事を捉えかつ行動しなければなりません。そのためにも,本学で育んだ個性を存分に発揮し,自らの考えを積極的に主張していただきたいと存じます。

我が国の経済は相変らず低迷し続けています。諸君はこのような時に,職業人として国際競争の場に立つとき,国家の一員であることと地球人であることとに齟齬を感ずるかも知れません。これは,多くの国々がイラク戦争をめぐって,国家と世論が対立している現象に似ていますが,大切なことは,あらゆる競争は,人道の倫理を基本とした正当なものでなくてはならないことです。21世紀のキーワードは競争的共存であり,そのための世論は,国があっての世論ではなく,世論があっての国であらねばなりません。諸君の一人一人の言動を全体の総意とすることで,日本が世界の国々から信頼され,21世紀の国際社会を切り拓いていくことを期待いたします。

角間キャンパスでは,冬の眠りから醒めた草木が萌芽し,浅の川の流れは春の陽射しを受けて輝きを増しています。諸君におかれては,自然に恵まれ詩情豊かな学府・金沢で学生生活を送った感動を胸に刻み,世界に向けて大きくはばたかれますよう。金沢大学は,法人化を目前にし,地域に根ざし世界に開かれた大学に向けて邁進しています。個性を磨くために,再び母校に戻られることがあれば幸です。諸君の健闘を称え,さらなる発展を祈念し,告辞といたします。

平成15年3月22日
金沢大学長 林 勇二郎

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