平成16年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

掲載日:2004-4-7
学長メッセージ

平成16年4月7日 金沢市観光会館

本日ここに1891名の新入生を迎え,平成16年度金沢大学入学式が挙行されましたこと,誠に慶賀に存じます。新入生の皆さんおめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。

諸君が入学された金沢大学は,1862年の加賀藩種痘所を源流とし,1949年に当時の高等学校群を統合し,新制の総合大学として設立されました。以来,日本海側にある基幹大学として,7万有余人の卒業生を輩出し,我が国の高等教育と学術研究の発展に大きく貢献してまいりました。

そして,55年の歴史を刻んだ今,設置者を国から自らの大学に変え,国立大学法人金沢大学として新たな一歩を踏み出したところです。諸君はまさにその第一回生であります。

法人としての出発にあたり,大学の存在理由である“社会のための大学”ということを改めて問い質し,本学を21世紀の知の拠点となるべく “地域と世界に開かれた教育重視の研究大学”として位置づけ,その拠って立つ理念・目標を金沢大学憲章に制定いたしました。

人類は長い歴史の中で,創造と破壊を繰り返しながらも自然及び社会の諸現象に対する理解を深め,公共性の高い文化を育んできた。学術研究を預かる大学は,知の創造と人材の育成をもって世代を繋ぎ多様な社会の形成と発展に貢献してきた。そして今や世界は国家の枠を越え多くの人々が地球規模で協同する時代を迎えている。

これは憲章の前文です。人類は,自分たちの周りの自然,人々が生活している社会,自ら考え行動する人間そのものを対象として研究を進め,これまで多くの知見を獲得してきました。なかでも自然科学は精神と物体を分離した二元論を展開し,対象となる領域を細分化することで堅牢な学理を築いてきました。

しかし,利便性を追求する科学技術は,地球規模での環境破壊などの多くの問題を引き起こしてきたことは周知のとおりです。またこの科学技術の発展は,産業の高度化・多様化をもたらし,このことが大は地球規模から小は家庭の単位に至るまで社会構造を変化させ,国の政治や経済,地方の個性や文化,さらには子どもの教育や発達にまで影響を及ぼし,様々な問題を投げかけています。

21世紀は心の時代と言われています。これは,物質的な豊かさにつながる利便性や効率主義に対する反省であり,科学が人間と乖離して独尊をもって歩んできたことに対する反省でもあります。

これからの学術研究は,必ずしも小さな領域に閉じ籠もることなく,専門の学際,総合,さらには学融合をもって進めることが大切でありましょう。

本学の大学院研究科は,このような学際性や総合性を特徴とした社会環境科学研究科,自然科学研究科,医学系研究科を組織しており,これらの研究科を越えたプロジェクト研究も動き出しています。

教育においては,物事に柔軟に対応する考え方,問題を解決する能力,さらには倫理感や国際感覚を持つ人材を育成することに重点を置いています。ますます複雑化・多様化する時代にあって,行政においても企業においても専門性の高い職業人を必要としており,本学では法曹をはじめ,経営学修士や技術経営者の養成を進めているところです。

これまでの日本は,企業においても大学においても画一的な組織や制度を取り入れ,平均的な人材育成を進めてきました。しかし,グローバル市場のもとでは均質的な組織は脆弱であるし,平均性や同質性の中からは新しいアイデアは生まれてはきません。

国立大学の法人化は,それぞれの大学が個性を打ち出し,自主自律をもって教育研究そして社会貢献の活動を積極的に進める好機でありましょう。

しかしその一方で,活動実績が評価され,それによって運営費が交付される仕組みは,評価に弱い部分の切捨てや成果主義に陥る恐れがないではありません。本学は民営的な発想は取り入れつつも,総合大学の個性と多様性を維持することで健全な競争環境を醸成し,これによって公共性の高い教育,研究の責務を果たそうとしています。

諸君はこのような本学で教養と専門を学び,友人と付き合い,金沢の町で生活することになります。恵まれた環境の中で,個性を引き出し自己を発達形成させるとともに,公共の精神を培っていただきたいと存じます。

公共性は,自分が自分自身であることと,他人と連帯し協同することとの均衡のうえに成り立っています。諸君の一人一人が,法人となった本学への入学にあたって,公に立つ個とは何であるかを考えることからスタートすることを期待いたします。

角間の山々や小立野の台地で草木が萌動し,諸君の今日の入学を歓迎しています。学術文化を継承し発展する学都・金沢において,法人として新たに出発する本学で学ぶことを誇りとし,21世紀を担うのは自分たちであるとの自覚をもって充実した青春の時を刻んでいただきたい。このことを祈念し,告辞といたします。

平成16年4月7日
金沢大学長 林 勇二郎

FacebookPAGE TOP