平成17年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

平成17年4月7日 金沢市観光会館

本日ここに1,895名の新入生を迎え,平成17年度金沢大学入学宣誓式が挙行されましたこと,誠に慶賀に存じます。新入生の皆さんおめでとうございます。心からお祝を申し上げます。

諸君が入学された金沢大学は,1862年の加賀藩種痘所を源流とし,1949年に当時の高等学校群を統合し,新制の総合大学として設立されました。以来,日本海側にある基幹大学として,我が国の高等教育と学術研究の発展に大きく貢献し,55年の歴史を刻んだ昨年,“社会のための大学”という原点に立ち返り,国立大学法人金沢大学として新たな一歩を踏み出したところです。

諸君は,豊かな教養,高度な専門の知識や能力を身に付け,将来有用な社会人となるために本学に入学されました。本日の入学式はそのことを宣誓する式でもあります。

人類は今,地球の有限性と成長の限界を自覚することで,両者の共生をもって,持続可能な社会に向けて発展しようとしています。

地中に埋蔵される資源エネルギーは枯渇し,それらを利用し廃棄される物質は地球規模で環境を悪化させていますが,本来,資源と環境は時間と空間が一体となった相即不離の関係のものです。このことを無視した余りにも急速な発展は多くの不調和をもたらし,今や両者を循環するシステムの構築が問われています。

世界の人口は現在63億人ですが,2050年には約89億人になると予測されています。人口の急増とそれによる食糧の不足は,総量としてだけではなく,地域格差がより深刻な問題です。格差の均衡には,食や感染症の問題を含めた安定で安全な市場メカニズムの形成が喫緊ですが,地産地消の時空間の概念に依拠している風俗,慣習,生活文化といったものを如何に維持していくかが大切となりましょう。

そして,このような地球上のすべてがグローバル化する中で,この流れに埋没しそうになっている自然界の多様な生物資源を保存し,人類が創造した存形・無形の文化を維持・継承することが最大の課題と言えましょう。

このような課題を抱える21世紀は,地球規模での国際協調が求められ,その一方で,競争が同時に進行する時代です。協調は,地球温暖化防止の京都議定書や生物多様性の保存のためのラムサール条約など,国際的な足並を揃えるための枠組であり,競争は国家という個性の主張であります。

国家を主張するための国力には,物や技術をベースにした産業の力や経済の力がありますが,21世紀は,知識・情報・技術が政治・経済・文化など,社会のあらゆる活動の基盤となる「知識基盤社会」Knowledge-based societyの時代と言われています。このような知の力,あるいは知に基づく総合の力が国の力でありましょう。

我が国は,中国・韓国・ロシアなどの近隣諸国に対して主権を主張し,さらには,東アジアそして世界において中心的な役割を果たすため,産業構造と雇用形態を転換し,経済力の強化を図ろうとしています。人材立国と科学技術創造立国を標榜し,中央教育審議会の答申「我が国の高等教育の将来像」に続いて「第3次科学技術基本計画」を策定しようとしているのもそのためであり,そこにはこれまでの物質・経済主義に加えて,知識や精神,物事の考え方を重視する方向が打ち出されています。“キャッチアップからフロントランナーへ”は合言葉になっていますが,これは,これまで日本古来の精神を以って西洋の学問・知識を学び取って来た,「和魂洋才」との決別でもあります。

本学は法人化にあたり,金沢大学憲章を制定いたしましたが,そこでは,多様な能力を持つ意欲的な学生を受け入れ,専門知識と課題探求能力,さらには国際感覚と倫理観を有する人間性豊かな人材を育成するとしています。

研究においては,基礎から実践に至る幅広い知を創造し,新たな学問の開拓と産業の創出をもって社会に貢献し,北陸さらには東アジアにおける知の拠点として,世界に向けて情報を発信することとしています。

金沢大学はこのように,地球規模の視点を持ち,国際協調を先導するアカデミアとして,また我が国を背負う国立大学法人として教育研究を進めていますが,これは大学の社会に対する責任の自覚でもあります。

諸君はこれからの4年又は6年間を本学で学び,友人と付き合い,金沢の町で生活することになります。国際協調と競争とが問われる時代に社会人となるために,幅広い教養と高度な専門を学び,社会の規範に則って行動し,そして個性を引き出し自己を発達形成することになりますが,これは自己責任であるとともに,地球市民として国家の一員としての社会的責任でありましょう。今日の入学にあたって,諸君は本学とともに,将来の社会に対する責任を自覚することを期待します。

角間の山々や小立野の台地では草木が萌動し,諸君の今日の入学を歓迎しています。学術文化を継承し発展する学都・金沢において,法人として新たな一歩を踏み出した本学で学ぶことを誇りとし,充実した大学生活を送っていただきたい。このことを祈念し,告辞といたします。

平成17年4月7日
金沢大学長 林 勇二郎

 
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