個性集う「知の鎮守」(北國新聞社提供「学術の森」より)

藩政期から学問を重んじてきた石川,富山には,全国有数の密度で大学が集積してきた。この地に根を下ろす大学は,これから,県民と共にどう歩み,どう発展していくのか。今に息づく「知の伝統」を探り,大学改革を担う教授たちの素顔を追いたい。

「金沢大学は北陸の知の鎮守である」。連載の初回を飾るに当たり,林学長が寄せた言葉だ。1862(文久2)年の種痘所を源流に,旧制四高などを前身校とする金大は,まさに「天下の書府」の担い手であり,「知」の鎮守,すなわち守護神を名乗るにふさわしい。個性あふれる教授陣が知の探求に林立する総合大学の姿は,さながら「鎮守の森」。林学長は,村の神社が果たすべき役割と重ね合わせ,「地域に根差し,村人が集まる場であると同時に,よその人と文化が出入りする拠点でありたい」と話す。

対極の世界観

基礎と応用,文系と理系,教育と研究,多様性と統一,競争と共生…。対極を表す概念から一つの大きな世界観をつむぎ出す思考が林学長の持ち味だ。専門の熱工学で極小の現象から全体を説明する「ミクロ輸送現象論」を開拓してきた経験が,大学運営の手法に反映されているのだろう。

例えば基礎研究と実践研究の場合はこうだ。

法人化を機に制定した大学憲章には「社会のための大学」をうたっている。近道は社会にすぐに役立つ実践研究を進めることだ。ところが高度に科学技術が発達した現在,遺伝子やナノテクの世界のように,基礎研究と実践研究の境は見分けがつかなくなった。「学問の開拓こそ産業の創出につながる」と力説する。

逆に基礎科学者が学問的な興味だけで研究したとしても,クローン技術のように,実践に移せば倫理的な問題が生じる場面が増えてきた。「基礎科学者といえど,自分の出した結果に責任を持たなければならない」。法人化で基礎研究が衰退するとの見方がある中,林学長は基礎と実践の相補性を引き出す道を明るく照らしている。

金大が進める2つの21世紀COEプログラムが象徴的だ。一方は地球46億年の歴史と現在の環境問題を環日本海の視点で解明し,もう一方はハエの脳を端緒に人間の発育をひも解く。大学トップの思想が金大の学際的な研究土壌を作り出しているのである。

東アジアの拠点

学術の森「金沢大学」は北陸の鎮守であり,同時に東アジアの知の拠点を目指している。国際的な研究競争に勝ち残り,北陸の固有性を守り育てる指導者の意識は高い。

(平成17年1月5日北國新聞より転載)

Pocket
LINEで送る