教職員への年頭あいさつ 平成18年1月4日

掲載日:2006-1-4
学長メッセージ

あけましておめでとうございます。

比較的短い年末年始の休暇でした。休養十分とは言えないでしょうが,新年早々業務は目白押しです。心機一転,今年も全学が一丸となって職務に精励されることを祈念し,年頭のごあいさつを申し上げます。

21世紀に入ってからこの数年,本学は幾つかの大きな課題に対して全学的に取り組んでまいりました。

その一つは,角間地区への薬学部と工学部の移転であり,宝町・鶴間地区での病院及び医学系部局の再開発事業です。これまで文部科学省の御理解を得ながら比較的順調に進めてきましたが,全体計画の主要あるいは最後の部分が平成18年度政府予算案に,また,附属高校の改修が17年度補正予算案に認められました。これによって,角間,宝町・鶴間,平和町の3キャンパスの整備にほぼ目途が立つことになりました。

二つ目は,平成13年6月にまとめた「金沢大学の課題と取組み」であり,それに基づく全学組織の改革です。これまで学内共同の全センターについて,新設あるいは拡充改組を進めてきましたが,本年4月には,がん研究所の組織を改編いたします。平成20年度に現行の8学部を3学域に再編統合する学域構想については,全体像がほぼ固まったことで,昨年末に6年制の薬学科の学生募集にあわせて公表したところです。大学院の整備については学域構想とセットで進めてまいりました。医学系研究科及び自然科学研究科を部局化し,さらに専門職大学院の法務研究科や医学系研究科の医科学専攻修士課程を設置し,本年4月には社会環境科学研究科が区分制博士課程に改組されることになりました。こうした状況を受けて事務組織の改編も検討されており,本年4月にはその第1段階として,部局の事務部が業務の自己完結を目指して3事務部制へ移行される予定です。

三つ目は,平成16年4月の国立大学の法人化です。いよいよ3年目に入る訳ですが,公務員数の5年間で5%削減という政府方針に対応して,各国立大学法人は自らの人件費削減案を中期計画に書き込むことが必至となるなど,新たな課題も浮上しております。

以上のように,キャンパス施設,部局及び事務部の組織の基盤が整備され,また法人運営が軌道に乗りはじめたことで,本学はいよいよ本格的な活動を展開する態勢が整ったと言えます。目標とするのは,「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」であり,「社会のための大学」です。その拠って立つ理念は金沢大学憲章に記されているところです。

教育においては,多様な学生を受け入れるとしていますが,このことによって本来見え難いとされる教育の目標を明確にし,学部と大学院を接続した教育の実質化をもって社会に還元しなければなりません。

研究においては,基礎から実践に到る幅広い知を創造し,新たな学問の開拓と技術や産業の創出に資するとしています。このことは,科学と技術が接近している今日,基礎研究者といえども自分の研究に責任を持たざるを得ないこと,また技術がフィードバックされ基礎研究が発展する側面があることも意味しています。

国立大学法人金沢大学は,このような公的な教育と研究を預かる機関として守備範囲を拡大し,そのリソースを活用した社会貢献の活動を推進することで,地域に開こうとしています。そのためには,民営的な手法が大切であることは言うまでもありませんが,その際,国立大学としての「公共性」と法人としての「企業性」を両立させること,すなわち大学倫理とも言えることが問われることになりましょう。

大学は,教員,事務系職員,そして学生を構成員としていますが,教育と研究を担当する教員が上位にあり,事務系はそれを支えるといった考え方が相変わらず根強いようです。しかし民間の企業,例えばメーカーにあっては,生産,営業,販売,サービス,経理等の部門はすべて対等です。国立大学が「企業性」を持つとすれば,職員はそれぞれの役割を理解したパートナーでなければなりません。そして学生を預かるこのような透明性のある教学の場にあって,また知の創造の場にあって,アカハラ,パワハラ,セクハラ等のハラスメントはあってはならないことです。

競争は,「企業性」におけるキーワードの一つです。しかし大学においては,この競争は健全なものでなければなりません。研究業績の競争がテレビの視聴率稼ぎのように扱われることで,論文データのねつ造などの問題が出始めています。患者へのインフォームド・コンセントや遺伝子操作等の実施にあっては倫理規程の厳守は当然のこととして,技術や医療に関わるすべての科学研究が倫理的問題を抱えていると考えなければなりません。そして,競争に馴染まず外部資金の望めない基礎や純粋科学を,ロバスト的に維持することこそ大学が組織的に堅持すべき倫理であり,総合大学である本学の努めです。

人類に今問われているのは,将来の世代と地球に対する責任の自覚です。大学が社会における知の拠点としてこのことを先導するためにも,学問の中立性を維持し,成果主義に陥らない長期的な展望を持たなければなりません。本学が,我が国の基幹大学として公教育を預かり,21世紀の時代を切り拓くためにも,職員一人ひとりの自覚に立った公共性こそ大切と言えましょう。年頭に当たり,このことを祈念しあいさつといたします。

FacebookPAGE TOP