平成17年度 金沢大学学位記・修了証書授与式学長告辞

本日ここに,平成17年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されましたこと誠に慶賀に存じます。ただいま学部1.845名,大学院744名,専攻科 10名及び別科28名,計2.627名の方々に学位記及び修了証書を授与いたしました。卒業生,修了生の皆さんおめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労と本学へのご協力に感謝し,併せてお喜びを申し上げます。

さて諸君は,これから,職業人として,研究者として,そして市民として,社会に向けて新たな一歩を踏み出します。諸君への期待は大きいものがありますが,市民として,職業人として,今ほど責任と誇りが問われている時代はありません。卒業にあたり,自分たちが進む社会について,その中にあって自分はどうあるべきか,何をなすべきかを真剣に考えていただきたいと存じます。

人類は長い歴史の中で,創造と破壊を繰り返しながらも,自然や社会の諸現象に対する理解を深めることで,それらの複雑な変化に対応してきました。特に, 18世紀末に始まる,科学技術の発達と産業構造の変化は顕著であり,それらは今日の高度技術化,高度情報化の社会を築きあげました。しかし,それは,地球のエネルギー・資源を大量に消費し,環境に大きな犠牲を払い,国際社会から家庭の構造,さらには人間の言動に到るまで様々な事象に影響を及ぼしてのことです。

このような今,人類には“将来の世代と地球に対する責任”が問われています。持続可能な発展,精神的な豊かさの追求,知識基盤社会の構築等々は,これから課題となる21世紀のあり様と言えましょう。持続可能な発展や心の問題は,これまで物質的な価値を優先させてきたことへの反省であり,これには人類が共働し,また一人ひとりが地球市民として取り組まなければなりません。そして,知識基盤社会の構築には,技術や情報が,人間との関わりに十分配慮されず,社会システムに組み込まれたことへの反省があります。世界の国々は,技術や情報に対する知識と理解を深めることで,知識を基盤とした健全で安定な社会に向けて戦略的に取り組んでいますが,我が国の「e-Japan重点計画‐2003‐」においても,ITを利用した通信ネットワーク,教育,電子商取引,行政サービス等々が,基盤の確立に向けて動き出しています。しかし,その一方で,ウィルスの感染による情報の漏洩,建物の耐震強度の偽装,粉飾決算等々の問題が多発し,これらに関わる職業人の責任が問われているところです。

このような問題の背景には,ネット社会に必要な規範や法整備の遅れがありますが,今,我が国で進められている「官」から「民」への構造改革と規制緩和があることも否定できません。「官」は規制と保護の塊であり,「民」は規制からの自由と競争を促し,どの企業が良いかは市場での淘汰によって決まるとされる市場万能論が,公共性を不在にした風潮を高める要因となっているからです。「市場性」か「公共性」かの議論は,人命を預かる企業では,事故が起きてからでは遅すぎますし,人を育てる教育にはあまりにも時間が掛かりすぎます。市場化テスト法が動き出そうとしていますが,実施するのであれば,業務の内容を見極め,公共性の高い部分には何らかの社会的規制が必要でしょう。

諸君は,本学において豊かな教養を身につけ,高度で幅広い専門知識を修得し,学問や研究のアプローチの仕方を学びました。これから諸君が活躍する社会は,情報量が多く,伝達が速く,いつでもどこでも情報を交換できるネット社会です。このような実践場で,個人として組織の一員として,自ら考え,かつ行動するためには,本学で学んだことを基本とした上で,より総合的な見方に立った確かな判断が必要です。誰でもが知り得る情報をインフォメーションと言うならば,諸君に求められるは,このような情報を基に,知的に創造・集約された情報であり,これはインテリジェンスでありましょう。

また,情報社会では,個人の体験もコミュニケーションも間接的となり,他者との関係が稀薄になりがちです。諸君はこのような状況の中で,意識や行動を自律させなければなりません。意識や行動を自律させることで責任を全うし,それを集団で発揮することで公共性を高めていただきたい。企業が社会的責任を果たす上では,組織のリーダーと構成員の意識がまず問われますが,ステークホルダーである市民の存在が大きいことは言うまでもありません。諸君が,職業人として市民として,組織の構成員としてステークホルダーとして,高邁な意識を持つ社会人となることを期待いたします。

角間キャンパスの山々に,そして宝町・鶴間から眺望できる犀奥の山々に,春の息吹が感じられます。諸君におかれては,自然に恵まれた金沢での学生生活を胸に刻み,世界に向けて大きくはばたかれますよう。金沢大学は法人としての競争を進めながらも,国立大学としての教育と研究の公共性を堅持することで,地域に根ざし世界に開かれた大学へと邁進いたします。個性を磨くために,再び母校に戻られることがあれば幸いです。諸君の健闘を称え,さらなる発展を祈念し告辞といたします。

平成18年3月22日
金沢大学長 林 勇二郎

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