平成18年度 金沢大学学位記・修了証書授与式学長告辞

平成19年3月22日 金沢市観光会館

本日ここに,平成18年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されましたこと誠に慶賀に存じます。ただいま学部1,872名,専攻科7名及び別科36名,計1,915名の方々に学位記及び修了証書を授与いたしました。卒業生,修了生の皆さんおめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労と本学へのご協力に感謝し,併せてお喜びを申し上げます。

諸君は本日,学士の称号を得て本学を卒業され,社会への一歩を踏み出します。大学院に進学して,さらなる勉学を続けられる方もありましょうが,これも社会に向けた一歩でありましょう。社会は人間が集って共同生活を営む形態であり,人間関係の総体が一つの輪郭をもって現れる集団の総和として定義されます。政府,市民,そして各種の企業を包括する産業など,それぞれ輪郭を持つ集団が互いにパートナーとなって運営される自治組織が社会ですが,これまでの主権国家を中心としてきた社会は,地方自治体から国家の連合や共同体など,階層的な社会へと変化しつつあります。これらはグローバリゼーションとローカリゼーション,両者を併せてグローカリゼーションと呼ばれる現象ですが,グローバリゼーションの背景には,自由貿易協定などによる経済市場のグローバル化や企業の多国籍化があります。25カ国からなるEUに続く,ASEANプラス日中韓の13カ国による東アジア共同体等の動きには様々な大義がありましょうが,現実には米国,中国,ロシア,インド,ブラジルなどの大国に対抗した国家の統合であると言えましょう。もう一つの動きは,社会における実質的な活動の責任や権限を生活が直結する地方政府に委ねる地方分権であり,これがローカリゼーションです。諸君はこのような時代に社会人となり,市民として職業人としての責任が問われることになりますが,それは国家の枠にとらわれず,身近な地方から地球規模の国際社会までを視野に入れたものでなければなりません。

諸君は,この4年間あるいは6年間を多様な可能性の中から自分の専門を選択し,それに関わる知識を修得し,学問のアプローチの仕方を学び,それを応用・発展させる能力を培われました。その一方で,大学のサークルや学外での生活活動を通して多くの友人や市民・県民と交わり,当地の伝統文化や歴史に触れる様々な体験をされたことでしょう。大学教育は専門と教養からなりますが,専門のアウトカムは一般に単位の修得で評価されます。しかし,教養は授業による知識や知恵の修得だけではなく,生活や社会との関わりを通して獲得するものの見方,考え方,価値観などの総体でありましょう。そして,それらの達成度は一人ひとりで異なりますが,確かなことは,多様な可能性の中での選択・集中という自らの主体的な行為が,基礎に根ざした高度な専門分野を修得させ,またこのような学問を拠り所として自己が形成されたことであり,それによって諸君の将来の可能性が大きく拡がっていることです。

人類は,エネルギー・資源,環境,人口などの地球規模問題を抱え,さらには民族の対立,国家間の政治・経済の衝突,地方や文化の衰退など,様々な課題に直面しています。社会の階層化と広域化が進む21世紀は,主権国家としての主張とともに国家の枠組みを超えた協同の時代を迎えています。京都議定書も漸く発効され,人類の持続可能な発展に向けて一縷の道筋が立ったかに見えます。また,18万人の犠牲者を出したスマトラ沖大地震においては,他者の傷みを分かち合う様々な活動が展開されました。国際社会は,民族,宗教,文明,さらには国家の枠組みを超え,協同に向けて動き出していると言えましょう。そして我が国にあっては,国民の地球市民としての高い規範意識のもとで,国は国際協同にリーダーシップを発揮し,その一方で規制緩和をもって官から民への構造改革を進め,経済活動等を活性化することで我が国の主張を高めようとしています。しかし,市場主義や競争主義という過度な価値観が様々な不祥事を生み出し,信頼や連帯が失われ,ぎすぎすした社会へと変化しているように思えます。今,国民一人ひとりに問われているのは,国際社会及び国家という社会において,市民として,また職業人としての公共の精神であり,それに基づく社会的責任です。そして,ここで言う公共の公は国家の公ではなく,「みんなのための公」であることは言うまでもありません。諸君一人ひとりがみんなのための公共の精神を発揮し,人と人とが連帯した社会を紡ぎ,それによって力強い国家を創り上げていただきたいと存じます。

角間キャンパスのある奥卯辰山にも,宝町・鶴間キャンパスの小立野台地にも春の息吹が感じられます。諸君におかれては,北陸の知の拠点・金沢大学で学んだことを誇りとし,それぞれの道で活躍されますよう。仕事の関係で,同窓生として,また再び学ぶために母校を訪ねられることがあれば幸いです。諸君の健闘を称え,さらなる発展を祈念し,告辞といたします。

平成19年3月22日
金沢大学長 林 勇二郎

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