平成19年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

掲載日:2007-4-7
学長メッセージ

平成19年4月7日 金沢市観光会館

本日ここに1,946名の新入生を迎え,平成19年度金沢大学入学宣誓式が挙行されましたこと,本学の大きな喜びであります。諸君の入学を歓迎し,心からお祝いを申し上げます。おめでとうございます。

なお,この度の能登半島地震で石川県は大きな損害を被りました。本学でも,新入生を含む多くの学生,職員の方々が被災されています。大学は,医師・看護師・カウンセラー・地震調査団などを現地に派遣するとともに,学内への対応を進めていますが,皆さんにおかれましても能登地区のいち早い復興のために,ご協力くださるようお願いを申し上げます。

諸君はこれからの4年間,あるいは6年間を本学で学び,この地で大学生活を送られます。“天うつ波けぶらひ 天そそる白嶺の 北方の都に学府ありて 燦たる燈をかかげたり”。これは室生犀星作詞による金沢大学の校歌で一節です。ここに歌われているように,石川県・金沢市は前方に日本海を抱き,背後に白山山系が聳える地の利をもって,大陸からの風で運ばれた雨水をしっかりと受け留め,豊かな自然を育んでまいりました。自然の命は浅野川や犀川の流れと共に,また河岸段丘の造る樹木の帯を伝って街中に持ち込まれ,市民の生活と融和した独持の風土を醸し出してきました。

このような地にあって,1862年の種痘所を源流とする金沢医科大学,石川師範学校,第四高等学校,金沢高等工業学校などの高等学校群が学術文化の流れを引き出し,1949年にこれらが統合することで総合大学である金沢大学が誕生しました。以来,58年の歩みの中で,角間キャンパスへの総合移転と宝町・鶴間キャンパスの再開発が進められ,また大学法人へと移行することで「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」の燈を掲げ,新たな一歩を踏み出したところです。面積250ヘクタールのキャンパスは,国立大学の中で3番目の広さであり,最新の建物と施設,優れた教授陣,整備された図書や情報ネットワークは,諸君の勉学を実りあるものとすることでしょう。

このように,自然の流れと学術文化の流れ,そして多くの歴史を受け継ぎ,知的存在感のある都市へと発展している石川県・金沢市はまさに学都であり,そこには金沢大学の存在があります。学都とは,学生達が主体的に学ぶことができる学業の場があり,それに加えてその土地の歴史や文化を体験し,社会に向けての準備の生活ができる都市と言えます。大学教育は教養と専門の教育からなりますが,教養は授業による知識や知恵の修得だけでなく,生活や社会との関わりの中で獲得する,ものの見方,考え方,価値観などの総体であるとすれば,ここに学都の存在理由があります。他方,専門は,職業や研究の特定分野に関わる知識や,それを応用・発展させる能力であり,これらは多様な可能性の中から選択するという主体的な行為とともに,堅牢な基礎のもとに積み上げられるものでありましょう。

諸君は高校教育を終え,大学入試という競争を経て大学生となられました。高校までの教育が学習指導要領などでいろいろと制約されていたのに対して,大学教育の場は大きく,かつ自由であり,広範にも深くにも学ぶことができます。このような場で,諸君の一人ひとりが自己を確立させ,多様な能力を獲得することになりますが,大学生活の過ごし方の如何によっては,大きな個人差が生ずることでしょう。大学や短大に学ぶ学生は同世代の50%を超え,その全員が進学できる時代です。大学卒はもはやエリートではありませんし,どの大学を出たかということがそれほどの意味を持たなくなっている今日,諸君の一人ひとりが自らの質と能力を如何に高めるかが課題です。

“自学自習を基本とし,教養と専門とを結合した学部教育と学際性や専門性の高い大学院教育を実施し,専門知識と課題探求能力,倫理感や国際感覚などを有する人間性のある人材を育成する”。金沢大学憲章の教育方針には,このような教養と専門に関する記述とともに,主体的な学びが強調されています。大学は自由で囲いのない学問への挑戦であり,それは自分自身の主体性にかかっていることを認識していただきたいと存じます。

人類は,エネルギー・資源,環境,人口などの地球規模の問題を抱え,その一方で,民族の対立,国家間の政治・経済の衝突,さらには地方の文化の衰退など,複雑で深刻な課題に直面しており,対象となる社会は地域から国,東アジアなどの共同体から地球規模にまで拡大しています。このような事態にあって,学際や学融合を含めた高度な専門が求められることは言うまでもありませんが,科学技術の合理性が絶対ではあり得ないように,専門的知識がすべてに優先する訳ではありません。知識や知恵の統合に留まらず,地域から国際的な協同をも視野に入れたものの見方,考え方,価値観が求められ,これが教養でありましょう。

能登では,多くの専門家集団とともにボランティアの方々が,復興に向けて汗を流しています。諸君には,専門職業人として市民として,社会的責任を果たすために何を考え,どのように行動するかが問われています。このためにも,本学において幅広い教養と高度な専門を学んでいただきたいと存じます。

角間の山々にも,小立野台地にも桜が開花し,諸君の入学を祝福しています。自然が変わらぬ移ろいを見せる中,本学は若くて活力のある諸君を受け入れました。このような新しい生命が学問の自由を息づかせ,大学の教育研究を一段と発展させるでしょう。諸君らの一人ひとりの行動が大学の社会的責任につながっていることを自覚し,実りのある青春の時を刻んでいただきたい。このことを祈念し告辞といたします。

平成19年4月7日
金沢大学長 林 勇二郎

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