平成20年度 金沢大学学位記・修了証書授与式 学長告辞

平成21年3月23日 金沢歌劇座

本日ここに,平成20年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されますこと,誠に慶賀に存じます。ただ今学部卒業生1,820名,別科修了生34名の方々に学位記および修了証書をお渡し致しました。みなさんおめでとうございます。心からのお祝いを申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労と本学へのご協力に感謝し,併せてお慶びを申し上げます。

さて,平成16年,諸君が入学した1年前ですが,金沢大学は,それまでの国立大学から脱皮し,国立大学法人として新たな一歩を踏み出しました。法人としての出発にあたり金沢大学憲章を制定致しました。その前文には,おおよそ次のようにあります。「人類は長い歴史の中で,創造と破壊を繰り返しながらも自然及び社会に対する理解を深め,文化を育んできた。研究と教育を預かる大学は,知の創造と人材の育成をもって世代を繋ぎ,社会の形成と発展に貢献してきた。そして今や世界は国家の枠を越え多くの人々が地球規模で共働する時代を迎えている」。本日を諸君の人生の大きな区切とし,今一度我が大学の大学憲章前文を思い起こし,自らの学生生活を振り返り,これからの人生への新たな決意を固めて頂きたく思います。幾多の教えを受けた師や,ともに学び競った友,挫折や絶望の淵で支えてくれた人々,磨かれた学問,自らの誇り,希望,夢,そういった事柄の豊かな蓄積が己を動かす原動力であることを認識して下さい。特に「あなた方一人ひとりの心に刻み込まれた一言」,それは人生の宝物として大切にして下さい。

皆さんは4月から社会人として,あるいは大学院生として人生の新たな一歩を踏み出します。今年は2009年,21世紀に入って10年目です。人類は資源・エネルギー,食糧,人口,気候変動,地球温暖化など,地球規模の問題に直面しています。これらの問題は,グローバル化の進行とともに,一層深刻化しています。皆さんの新しい門出にあたり,特に,深刻化する地球温暖化に関係して,私の思うところを述べたいと思います。地球温暖化に「人為起源の温室効果ガスが影響している」ことは確かなことと思われます。その深刻度は増し,対策がグローバルに検討され提案されています。1997年12月,京都で開催された第3回気候変動枠組み条約締約国会議,いわゆる京都会議で京都議定書が採択されました。そこでは,2008年から2012年において1990年に比べて,先進国全体で少なくとも5.2%の温室効果ガスを削減するという数値目標が設定されました。また,昨年8月に開催された洞爺湖サミットでは,「2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を現状から半減させるという長期目標を立て,「世界全体の目標として採用を求める」ことで合意しました。我が国は,より強力に対策を実施し,2050年までに60~80%を削減するとの決意表明をしました。以来,2050年の目標達成を目指し,住宅,交通,ものづくり,エネルギー供給源等,様々な視点から議論されております。

ここで考えねばならないことは,描かれている40年後の世界は,典型的には車社会など,現在の先進国が享受している生活を維持することを前提とし,今の文明を基準とするものです。言い換えれば,各国の温室効果ガス排出量削減のための政策や施策に如何ほどの違いがあるわけではなく,その行き着く先は,グローバリゼーションによる単一な社会の現出です。今求められていることは,しばし立ち止まって,文化の多様性に価値を見いだす時代であるということに思いを致すことです。現代は産業革命以来,疑うことなく人類が共有してきた価値観の大転換を迫られている時代であります。19世紀後半の重工業の発展とともに開かれた工業文明は,「利便性」や「豊かさ」を実現し人類の発展に大きな貢献をなしました。一方で負の遺産とも言うべき,資源の枯渇,環境の汚染・破壊等をもたらしました。文明は生まれ,発展し,衰退する。そしてまた新しい文明が生まれる。今はまさしく20世紀型工業文明からのパラダイムシフトの真っただ中にあります。このような時代にあっては,科学技術が育んできた価値観もまた変化を余儀なくされています。新しい視点,特に「地球の資源と環境の有限性」を見据えた新たな科学技術の創造が期待されています。知的所産の応用に責任をもつことが社会的責務であることを自覚しつつ,文明を見据え,既存の価値観にとらわれることなく,新しい価値観・世界観を生み出す営みに参加して下さい。

今後の社会に重要な概念として,「持続可能性(サスティナビリティ)」と「生存可能性(サバイビリティ)」が言われていますが,共に存在し共に生きる,すなわち「共存(コンパティビリティ)」こそが新しい価値観,世界観を生む基礎であると,私は信じています。

諸君が足を踏み出す現下の社会は,アメリカでのサブプライムローン問題に端を発した100年に一度ともいわれる未曾有の金融危機にみまわれています。世界経済は歴史的な難局を迎え,パンドラの箱が開いたような混沌に満ちています。この混沌は,価値観の転換に拍車をかけるでありましょう。ただし,古い価値観が崩れる混沌の時代は,また,大きな革新を生む胎動の時代であることを歴史は示しています。

1929年の世界恐慌の後には,多くのものが生まれました。1937年にはコピー機などが登場し「発明ラッシュの一年」と呼ばれました。また,日本やアジアが金融危機に見舞われた1998年にはその後の情報社会を先導するグーグル社が設立されました。諸君には,100年に一度の金融危機・混沌を,100年に一度のチャンスと捉え,希望(ェルピス)を持って進んで頂きたい。金沢を象徴する言葉,「寺町まっすぐ」の精神で進んで頂きたい。

角間キャンパスでは草木が芽吹き,宝町・鶴間キャンパスから望む犀川源流の山々はわずかに碧く,浅野川の流れは春の穏やかな日差しを受けていっそう輝きを増しています。諸君においては,北陸の知の拠点・金沢大学で学んだことを誇りとし,それぞれの道で活躍するよう願っています。金沢大学は卒業生を重要な構成員と考えています。仕事上でのアドバイスを必要としているとき,再び学ぼうとする時,また,何事が無くても,同窓生として母校を訪ねることがあれば母校は諸君を暖かく迎えることを約束します。今後の諸君の健闘とさらなる発展を願い,告辞と致します。

平成21年3月23日

金沢大学長  中村 信一

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