平成23年度 金沢大学学位記・修了証書授与式 学長告辞

掲載日:2012-3-22
学長メッセージ

平成24年3月22日 いしかわ総合スポーツセンター

ここに,平成23年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されますこと,誠に慶賀に存じます。ただ今学域卒業生1,482名,学部卒業生292名,大学院修了生749名,別科修了生37名の方々に学位記および修了証書をお渡しいたしました。皆さんおめでとうございます。心からの御祝いを申し上げます。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労と本学へのご協力に感謝し,併せてお慶びを申し上げます。

人生の大きな区切りとなる今日,皆さんはそれぞれに学生生活を振り返り,これからの人生への新たな決意を固めていることと思います。金沢という土地との出会い,人との出会い,心を動かす書物との出会い…いくつもの出会いに導かれ,皆さんの「今」があります。どうか,今日という日は皆さんにとりどのような日であるのか,一人ひとりが真剣にむきあって頂きたく思います。

皆さんの最終学年の年,2011年という年を私達は生涯忘れないでしょう。1年前,3月11日。地震・津波・原子力発電所事故・電力喪失・風評被害。我が国を襲った東日本大震災は私達に衝撃を与え,日常風景を変えました。震災以降,今まで眠っていたわが国固有の価値観が表に現れ,それとともに新たな認識や思考が模索され,パラダイムシフトが迫られています。大量生産・大量消費で象徴される20世紀型工業文明の転換が,少なくともわが国では必然でありましょう。皆さんはこの様な世界に歩みを進めることになります。

東日本大震災に際し,金沢大学では地震直後から様々な支援活動を行ってきました。附属病院の医療支援や心のケア,放射性物質を扱う専門家による汚染調査や汚染除去,地震の専門家としての情報発信や防災立案,そして,学生の活力・奉仕精神が発揮された被災地でのボランティア活動,などであります。皆さんの中にはこれらの活動に参加された方がおられることと思います。今後とも皆さんとともに復旧・復興に積極的に参加いたしたく存じます。

皆さんの母校,金沢大学は1862年に設立された加賀藩彦三種痘所を源流としています。それから数えて150年の本年,2012年を大学の創基150年と位置づけ,<先魁 共存 創造>の3つのキーコンセプトの下,本学のアイデンティティを具体的な姿として確立するべく事業を展開しています。その歴史における146年目の2008年,今から4年前に,キーコンセプトの一つである<先魁>として,明治以来続いてきた学部学科制を廃止し,学士教育組織を学域学類制へと改編しました。従って本日は,学域学類制の第一期生を送り出す,記念すべき日であります。

今少し,医学部および薬学部卒業生,大学院修了生,別科修了生の皆さんも,金沢大学が刻む歴史の一環としてお聞き願いたい。4年前の学士課程入学宣誓式において,私は学域学類制の概要を説明し,それに続いて,「諸君には,この新しい学域学類制を実感し,自らの明日を目指して情熱を持って,学んで頂きたい。そして,問題や不満があれば,私や副学長を始めとした教員に,躊躇することなく話して頂き,学域学類という新体制を素晴らしいものにしていくための営みに,積極的に参加してくれることを願っています」と語りかけました。

それから4年。皆さんが今後社会でどのように活躍し,結果として学域学類制がどのような評価を受けるかは,皆さんの社会における活躍にかかっています。学域学類制をさらに進化させるべく,この4月から大学院を改編する予定です。皆さんには学域学類制での学びについて,また社会でこの新教育体制が如何に機能しているかに関して,是非御意見を大学に寄せて頂きたい。それが皆さんの母校をより発展させる最善の方法と思ってください。

さて,皆さんは4月から社会人として,あるいは大学院生として人生の新たな一歩を踏み出します。今,人類は資源・エネルギー,食糧,人口,気候変動,地球温暖化など,地球規模の問題に直面しています。これらの問題の解決,さらには東日本大震災からの復旧・復興には科学技術が大きな役割を果たすことは間違いありません。科学技術の発展は,衣・食・住すべてにおいて快適性をもたらし,人間生活を豊かにし,便利にしました。皆さんが生きる21世紀においては,科学技術はさらに発展し続けることは確実でありましょう。

しかし,皆さん,本日はしばし立ち止まり,我々人間と科学技術について少し考えて頂きたい。科学技術を生み出すのは人間であり,自らを取り巻く環境を変えてきたことは事実であります。一方,人間には変わらない本質があります。最も顕著な点は感覚にあります。人は1万年以上前の旧石器時代に描かれたスペインのアルタミラ洞窟壁画,フランスのラスコー洞窟壁画に高い芸術性を見いだします。時代を越えて人々が愛し保存してきたもの,彫像,絵画,音楽等々に,今に生きる我々も感動します。感動を生み出す根源は感覚であり,そこには,時代と文明を超えて受け継がれてきた人間の変わらない本質が見出せます。また,文化,「その地域で形成された人間の生き方・生活様式を中心にし,宗教・芸術,あるいは政治・法律等がひとつの形をもって存在する」と言われる文化,それは人々の日々の生活の支えであり,容易には変わりません。

変わらない本質としての感覚を有し,容易には変わらない文化を受け継ぐ人間,そして科学技術を発展させ続ける人間。この二面性の折り合いに,私たちは一層の意を尽くすべきではないでしょうか。

最後に今一度母校金沢大学に思いをいたして下さい。金沢大学は昨年11月5日,彦三郵便局の前に「金沢大学発祥の地」の石碑を建立しました。碑文にはおおよそ,「加賀藩は1862(文久2)年3月に彦三種痘所を開設し,これが国立金沢大学へと続く系譜の淵源となった」とあり,石碑は,金沢大学濫觴の証を後世に向けて記し続けます。

また,昨年11月12日にはアジア5大学学長フォーラムを石川県立能楽堂で開催し,その挨拶の最後で,私は,「種痘所が開設された当時,誰が,150年後の今日,アジアの国々を代表する諸大学が歴史の荒波を乗り越えてここに集うことを想像できたでしょうか。そして誰が,今から150年先の大学の未来を確実に語ることができるでしょうか。しかし,私たちは,学問の力によって未来のアジア世界と大学の姿を,協調と連帯の願いを込めて描かなければなりません」,と申しました。

金沢大学は「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」を基本理念とし「東アジアの知の拠点」を目指して一層の努力をいたします。皆さんには,生涯を通じて本学の営みに積極的に参加して下さることを願っています。

「伝統なき創造は盲目的,創造なき伝統は空虚である」。金沢出身の神経内科学者 冲中重雄先生(1970年文化勲章受章,1902-1992)の言葉です。皆さんが進まれる分野はいかなるものであれ,継承された知識を基礎として,新たな知を創造されんことを期待します。

金沢大学は皆さんの,知の創造の原点という意味で,母なる港,母港であります。同窓生として,仕事の関係で,また再び学ぶために母校を訪ねられることがあれば,母校は暖かく迎えることを約束します。皆さんが,金沢大学創基150年の記念の年に卒業したことを胸に刻み,新しい知の創造を担う「彊い金沢大学卒業生,彊い社会人」として勇気をもって志高く,グローバルに活躍されることを願い,告辞といたします。

平成24年3月22日

金沢大学長 中村 信一

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