平成25年度 金沢大学入学宣誓式学長告辞

平成25年4月7日 いしかわ総合スポーツセンター

本日ここに,桜満開の中,平成25年度金沢大学入学宣誓式が挙行されますこと,誠に慶賀に存じます。ただ今,学域入学生1,857名,大学院入学生784名,別科入学生37名の入学許可を宣言致しました。2,678名の皆さん,皆さんは今日から金沢大学の学生です。おめでとうございます。金沢大学を代表して,皆さんを心から歓迎いたします。また,今日の日を共に祝うために,ここに参集されましたご家族の皆さまに対しましても,心からのお祝いを申し上げます。

2年前,2011年3月11日,東北地方太平洋沖地震が起きました。この大災害に際し,金沢大学は地震直後からさまざまな支援活動を行って来ました。附属病院の医療支援や心のケア,放射性物質を扱う専門家による汚染調査や汚染除去,地震の専門家としての情報発信や防災立案,学生の活力や奉仕精神が強く発揮された被災地でのボランティア活動,などであります。今後とも皆さんとともに手を携えて復旧・復興に力を尽くしたく存じます。

さて,皆さんが入学された金沢大学は,「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」を基本理念とし,「東アジアの知の拠点」を目指しています。その歴史をたどりますと,1862(文久2)年に設立された加賀藩彦三種痘所を淵源とし,1874(明治7)年,1887(明治20)年,1920(大正9)年にそれぞれ設置された石川師範学校,第四高等中学校,金沢高等工業学校を礎として,今日の3学域・16学類,5研究科の総合大学へと発展してきました。その間,本学の濫觴の一滴であった種痘所の人々の熱い思いと高い倫理性は,教育・研究の多くの領域からの水脈を集めて金沢大学を北陸に冠たる大河となし,その総合性,多様性,革新性の精神的支柱でありつづけました。

昨年,2012年は淵源から数えて150年の節目の年に当たり,創基150年と位置づけ,その数年前から<先魁 共存 創造>のコンセプトの下,種々の記念事業を行って来ました。3年前,2010年11月6日,金沢城公園に「金沢大学誕生の地」の石碑を据えました。また,一昨年11月5日には,加賀藩彦三種痘所の跡地である金沢市彦三郵便局前に「金沢大学発祥の地」の石碑を建立しました。是非,彦三郵便局,金沢城公園を訪れ,金沢大学発祥の地,誕生の地を実感して下さい。皆さんは,金沢大学が新たな150年への第一歩を踏み出す記念すべき年,2013(平成25)年,に入学されました。新たな歴史を刻むことを大いに期待しています。

学びには,そして人の成長には,空間が重要な意味を有しています。皆さんが学ぶ金沢大学は金沢市に位置しています。都市としての金沢は加賀の一向宗徒による1546年の金沢御坊の建立に始まります。その後1583年,今から丁度430年前に,前田利家公が金沢城に入城して以来,加賀藩の城下町として栄え,天下の書府として長い歴史のある町です。戦禍を免れ,また,自然災害も極めて少なく,歴史ある街並み,伝統工芸,伝統芸能が息づいている「歴史都市」です。その歴史の中で,金沢は近代の日本の学術をリードする偉人を輩出してきました。幾人か示しましょう。「善の研究」の西田幾多郎,「雪は天から送られた手紙」と述べた中谷宇吉郎,アドレナリンの結晶化に成功した高峰譲吉,日本の近代化学の祖と称せられる桜井錠二等。金沢ふるさと偉人館を訪れて下さい。そこには,金沢が誇る偉人たちが紹介されています。また,加賀三文豪と称される徳田秋声,泉鏡花,室生犀星を育み,全国に先駆けて,自治体主催文学賞,泉鏡花文学賞を設けたまちでもあります。まさに,伝統の中から創造が芽吹いている「創造都市」として面目躍如たるものがあります。地勢的には金沢に近接する小松空港から上海までわずか2時間,さらに2年後には北陸新幹線金沢開業により,東京までの時間が大阪・京都と同様に約2時間半に短縮され,国際的にも国内的にも「交流拠点都市」として発展を期待されている都市と言うことができます。どうか日本文化の香りが色濃く残る歴史都市・創造都市金沢から,大学のキャンパスからと同様多くを学んで下さい。

私は,1962(昭和37)年に本学の医学部に入学しました。3年に進級した頃,このまま医学の道を歩むことに疑問を感じ,当時の学生生活委員長の先生に相談にあがりました。先生は「中村君,医学の道は,臨床だけではないよ。基礎研究もあるし,行政もある,色々あるよ。だから卒業してから考えても良いのではないか」と諭され,医学の道を続けることにしました。このことが転機となり今日に至ったしだいです。「人が歩いて来た路にふと立ち止まって,此の路でよかったかと振り返って見ると同じように,今まで怪しむことなく従ってきた命令に対して,「何故か」(Why, warum)と言う問いを発する。之こそ人生に於ける最も重要な転機であって,此の問いこそ世にも貴重な問いである。」

これは,ごく最近目にした,社会思想家・経済学者河合榮次郎の著書「学生に与う」の中の一文であります。皆さん,学生時代に是非,ふと立ち止まり,振り返り,そして問いを発してください。

今,人類は資源・エネルギー,食糧,人口,気候変動,地球温暖化などの地球規模の問題に直面しています。また,我が国においては,本年に入り情況は幾分変わりつつあるように見受けられますが,1991年頃から現在に至るまで,20年以上に渡って経済が低迷しており,失われた20年とも言われている状態にあります。東日本大震災からの復旧・復興も重い課題であります。これらの事象を鳥瞰するならば,大量生産・大量消費を特徴とするこれまでの20世紀型工業文明は,少なくとも今日の日本においては,世界に先駆けて終焉を迎えているといえるでありましょう。新しい文明の創出には,認識・思考・世界観の大転換,パラダイムシフトが求められ,深い教養こそが,大転換期における自己の「立ち位置」を指し示します。教養は,また,学問の飛躍に於ける直感の源泉でもあります。

地球上に生命が誕生してからの30億年,ホモサピエンス誕生から20万年,我々・皆さんが生まれてからの年月といった時間軸,そして,個人,家族,社会,国家,世界といった空間軸。このような時間軸と空間軸からなる世界において己の「立ち位置」を定めることができる力,それが教養です。広く多様な学び,人との出会い・別れ,喜びや悲しみ,様々な言語や異文化との出会いなど,多くの思考との交わりが,皆さんの教養を涵養するでありましよう。

 

人との出会い,特に「友」は生涯の宝物となります。

Maria Elena Najeraが詠った「The Best Thing in Life is a Friend」という詩があります。 One of the best things about life is friends. You find them wherever you go. Friends are essential because they help bring out the best in you. When they see your worst, they still care. They just accept. Friends are the stars in your happy memories. In your sad memories, they are the shoulders you leaned on and the hearts that listened. They just care. Friends help you in your times of need. When things are going smoothly, they are content to be your friend. They just know. Friends help create all your fun times, always there to spread laughter and joy. When you need tears, friends provide these, too. They just understand. You, my friend, are all of these. And most of all, when you need it, remember friends just love, as I do you.

私の師匠が愛した詩です。私の実感でもあります。

「幸運の女神は,準備された人の心にのみ訪れる」。これは,フランスの偉大な細菌学者パストゥールの言葉です。このことを肝に銘じ,友との出会いを大切にし,志高く学びの世界を歩み,新たな知を創造されんことを期待します。

本年,創基150年記念事業の締めくくりとして,キャンパスに「学問の木」,「大器晩成の木」と称される「楷の木」を植樹します。150年の歴史・伝統を有する金沢大学で学ぶこと,また,歴史都市・創造都市金沢で学ぶことを誇りとし,ふと立ち止まり,振り返り,教養豊かな「準備された人」,「彊い金沢大学生,global students」として育っていかれることを祈念し,告辞といたします。

平成25年4月7日

金沢大学長 中村信一

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