平成25年度 金沢大学学位記・修了証書授与式学長告辞

平成26年3月22日 いしかわ総合スポーツセンター

ここに,平成25年度金沢大学学位記・修了証書授与式が挙行されますこと,誠に慶賀に存じます。ただ今,学域卒業生1,784名,学部卒業生27名,大学院修了生718名,別科修了生35名の方々に学位記・修了証書をお渡し致しました。皆さん,誠におめでとうございます。また,外国から本学に留学し,学位を取得された方々には,異文化の直中における懸命な努力と研鑽に対し,心からの祝意と敬意を表する次第です。ご家族・保護者の方々には,これまでのご苦労と本学へのご協力に感謝し,併せてお慶びを申し上げます。

私は,東日本大震災において津波の被害が岩手県で最大だった陸前高田市を大震災以後毎年訪れてきました。昨年暮れに訪れた時,沈下した地盤のかさ上げの大規模な工事を目の当たりにし,たたずむ私には,これは従来の復旧・復興ではなく,そこに新たな文明の胎動を感じました。今後とも,皆さんとともに復旧・復興に積極的に参加いたしたく存じます。

皆さんが学んだ金沢大学は,大学憲章において,基本理念を「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」と定め,「東アジアの知の拠点」として世界に貢献する,と謳っています。本日を皆さんの人生の大きな区切りとし,今一度,我が大学の大学憲章を思い起こし,自らが学んだ大学をしっかりと認識し,学生生活を振り返り,これからの人生への新たな決意を固めて頂きたく思います。幾多の教えを受けた師,ともに学び競い,共に喜び・悩んだ友,挫折や絶望の縁で支えてくれた家族,磨かれた学問,異文化社会におけるインターンシップ,社会での活動,クラブ活動,友と語った夢・希望,そういった事柄の豊かな蓄積が己を動かす源であることを認識して下さい。特に「あなた方一人一人の心に刻み込まれた一言」,それは,絶望の淵での励まし,成功の祝い,議論における痛烈な批判かも知れません。人生の宝物として大切にして下さい。人生のその時々に,皆さんを励まし,勇気を与えてくれるに違いありません。

皆さんは4 月から社会人として,あるいは大学院生として人生の新たな一歩を踏み出します。過去は未来への道標であります。私は,1968年に金沢大学を卒業しました。以来,今日までの46年の間,社会は大きく変化しました。白黒テレビ,電気洗濯機,電気冷蔵庫を3種の神器とした1950年代後半から1960年代前半の第一次高度経済成長期,三種の神器がカラーテレビ,乗用車,クーラーとなった1960年代半ばから1970年代前半の第二次高度経済成長期を通じて,生活の利便性は著しく向上し,いわゆるアメリカ型のライフスタイルを指標とする豊かさも,また,著しく増しました。しかし,最も重要な変化は社会の様々な領域における,あるいは,人の行動様式における価値観の転換です。180度の転換であります。大学で過ごして来た者として,関係することを例示として話しましょう。私が大学に入学した頃,1960年代,当時の風潮は,大学と企業が共同研究をすることは「望ましくない(けしからん)」というものでしたが,現在は産学共同研究をすることが「奨励される」(しなければ「けしからん」)という風に全く逆になりました。皆さんが生き抜くこれからの時代,認識・思考・価値観の大転換,いわゆるパラダイムシフトが,様々な分野で起こることは必定でありましょう。皆さんには傍観者ではなく主体としてパラダイムシフトに参画することが望まれています。

この様な時代,教養こそが自分の生きる道を指し示します。私は,多くの皆さんには,入学宣誓式において「教養」について語りましたが,今一度,語りたく思います。地球上に生命が誕生してからの30億年,ホモサピエンス誕生からの20万年,皆さんが生まれてからの年月といった時間軸,そして,個人,家族,社会,国家,世界といった空間軸。このような時間軸と空間軸からなる世界において己の「立ち位置」を定めることが出来る力,それが私の言う教養です。皆さんは,今,現時点において各々の「立ち位置」を定めていることと思います。今日からの年月,皆さんは更に成長していくでありましょう。また,皆さんを巡る社会も刻々と変化しています。その様な中で,皆さんの「立ち位置」は当然のことですが変化せねばなりません。「立ち位置」は個において変わらねばならないものであります。広く多様な分野での学び,多くの人々との交流,様々な思考との交わりが教養を涵養します。変化が激しい今の時代,皆さんには生涯学び続け,「立ち位置」を定められる事を切に願っています。

現下の世界を見ますと,18世紀の産業革命を起点とする,大量生産・大量消費で特徴づけられる20世紀型工業文明,そしてそれを支えた社会システムは終焉を迎え,大きく転換しつつあり,人類は資源・エネルギー,食糧,人口,気候変動,地球温暖化など,地球規模の問題に直面しています。国内にあっては,急速に進む少子高齢化・人口減少,地方文化の衰退,世代間の断裂,さらには東日本大震災からの復旧・復興など,解決すべき問題が山積しています。我々は叡智を結集し,知の創造に取り組み,これら諸問題の解決に立ち向かわねばなりません。

皆さんは,本学の学びの中で,教養を涵養する中で,各々自分らしい認識・思考の土台を築かれたことと思います。これこそ,皆さんが最も大切にしなければならない「個性」であります。「個性」は,個としての皆さんの中で,本質として変わってはいけない部分であります。「個性」は皆さんの個としての多様性の根源であり,磨かれた個性の衝突こそが知の創造の源泉であります。

皆さんが進む道は,様々な事情で選んだにしろ,一旦決めたならば,「個性」を原動力とし,忍耐強く目標に向かって突き進み,最後までやり遂げることを強く期待します。

皆さんの母校,金沢大学は1862年に設立された加賀藩種痘所を源流としています。それから数えて150年,2年前の2012年を大学の創基150年と位置付け,<先魁 共存 創造>の3つのキーコンセプトの下,本学のアイデンティティを具体的な姿として確立するべく事業を展開してきました。皆さんも記憶に新しいところだと思います。その歴史における146年目の2008年,今から6年前に,キーコンセプトの一つである<先魁>として,明治以来続けてきた学部学科制を廃止し,学士教育組織を学域学類制へと改編しました。従って本日は,6年制の医学類及び薬学類の第一期生を送り出す,記念すべき日であり,本日をもって学域学類制は一旦の完成をみることになります。

今少し,皆さんには,金沢大学が刻む歴史の一環としてお聞き願いたい。6年前,学域学類制が発足した年の学士課程入学宣誓式において,私は学域学類制の概要を説明し,「諸君には,この新しい学域学類制を実感し,自らの明日を目指して情熱を持って学んで頂きたい。そして,問題や不満があれば,私や副学長を始めとした教員に,躊躇することなく話して頂き,学域・学類という新体制を素晴らしいものにしていくための営みに,積極的に参加してくれることを願っています。」と語りかけました。

それから6年。学域学類制は,教育研究組織の,ユニークかつ先進的な改革モデル事例として多くの大学から注目されています。その評価は,皆さんの社会における活躍にかかっています。学域学類制をさらに進化させるべく,昨年の秋から検討を行っているところですが,皆さんには学域学類制での学びについて,また,社会でこの新教育体制が如何に機能しているかに関して,是非ご意見を大学に寄せて頂きたい。それが皆さんの母校をより発展させる最善の方法だと思って下さい。

昨年11月2日,創基150年記念事業の締めくくりとして,キャンパスに「学問の木」あるいは「大器晩成の木」と称されている楷の木を植えました。いつの日か大樹に育ち,皆さんの母校,金沢大学のシンボルとして,皆さんを迎えることとなるでしょう。遠い将来において到来するかもしれない,過酷な労働の必要もなく衣食住が満たされる時代においても,金沢大学は,多くの人が集い,「知の継承・知の創造」に満足を見いだす場,「内在的価値としての教育研究」が光り輝く大学となるよう,一層の努力を致します。

「幸運の女神は,準備された人の心にのみ訪れる」。これは,フランスの偉大な細菌学者パストゥールの言葉です。私は,「チャンスは全ての人に平等に訪れるが,準備された人のみが捕らえられる」と解釈しています。皆さんには是非,「準備された人」として成長されんことを期待しています。

本日卒業される皆さんに,グローバル大学として発展しつつある金沢大学を代表してエールを贈ります。

For all you Kanazawa graduates, one important thing.

Whenever, wherever you are, never fail to keep a strong identity of yourself in whatever you do.

I hope you all go and make an impact on the world !

And also I wish your dreams come true.

平成26年3月22日

金沢大学長 中村 信一

 

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