テーマ「国立大学と報道機関との連携」
山崎光悦学長 × 大野 茂利 ㈱読売新聞東京本社執行役員北陸支社長(平成27年9月24日)

山崎学長(以下,山崎) お忙しい中,ありがとうございます。このたびは,読売新聞東京本社と包括連携協力に関する協定を締結させていただきまして,大変嬉しく思っております。本日は,この協定締結を機会に,大野支社長との対談の場を設けさせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

大野支社長(以下,大野) 金沢大学とはこれまでも,今年で4回目になりますが金沢大学市民公開講座への共催,共通教育科目の講義である社会生活論「新聞から学ぶ」や「新聞を使ってのライティング」等に関わらせていただきました。昨年,私自身も講師をやらせていただきました。市民公開講座では,大学の研究成果を新聞等で発信するといった協力をさせていただきましたし,講義では,今「活字離れ・新聞離れ」がよく言われていますので,新聞の役割・重要性を学生の皆さんに理解してもらえるようお話させていただきました。このたびの協定締結により,これらの事業を一層充実・発展,更には,我々の全国紙というメリットを活かして研究成果を全国・世界に,発信することに協力させていただければと考えています。

山崎 活字文化離れについて,私は,かなり危機感を抱いています。最近は,見たいものはすべて写真や動画で見ることが出来るため,考える必要がなくなっています。映像であってもゆっくり流れれば映像と映像のコマの間で考えるべきことがたくさんあるはず。活字はそれよりもっとたくさん考える時間,余韻があり,そこからいろいろなものを読み解く・自分で考える・イメージする,いわゆるイマジネーション力が培われていくのだと思っています。そしてそれが人間の創造性に繋がっていくのです。私の専門は設計工学なのですが,設計も同じような仕事です。線しかなかった平面に,前・横・上から見たイメージを持ち,見えないところを点線で書くことで立体が浮かび上がる。自動車の設計になるともっと複雑だが,それでも1時間くらい眺めているとイメージ出来るようになります。これは人間が持っている立体を創造する力なのですが,同様に行間からもイメージング出来るはずです。「行間を読み取る」と言っても人によって感じること・考えること・思いつくこと・イメージすることが違います。それは自分の経験に基づくものであり,どれだけのことを知っているかでそれらの幅が違ってきます。人間の感性を研ぎ澄ますためにはそこがとても大事なことだと思います。

大野 今はよく「テレビもニュースもスマートフォンで見るから大丈夫!」という声を聞きますが,どのように感じていますか。

山崎 一番最低限のところを知るという意味では「大丈夫!」なのだろうけれど,人間の感性・感覚からすれば大変な危機だと思います。それは現代の子供達が悪いわけではなく,我々が便利に使うものとして作った道具ではあるが,それを使うことで失われていくものもあるということを,我々は知っていなければならないと思います。

taidan_yomiuri1大野 スマートフォンで十分だと言う人は,実はそれほどスマートフォンでニュースを見ているわけではなく,SNSやLINEやゲームをやっていて,ほとんど私的な空間に入り込んでいるだけです。スマートフォンの機能のほとんどが検索機能ですから,自分が興味のあるものだけ・目にしたものだけになってしまい,公的な事に目が向いていかない。新聞には,積極的に見ようとしていないものでも情報が入ってくる,そういう効果があると思います。大学側で機会をいただけるならば,そういった話を学生の皆さんに出来ればと思っています。

山崎 「iPadが登場し小説を読むようになった」という人もいますので,スマートフォンやiPadを全面否定するわけではありませんが,人間が道具を作るということは,便利になる分,副作用的なことが隠されているということを理解しなくてはなりません。極端な例ですが,自動車の発明によって人間は歩かなくなってしまったとか。便利になって失われていくものを注意深く見て,そこを補うトレーニングが必要なのだと思います。

大野 山崎学長はよくいろいろな場面で「人材育成・人間力強化」と言われていますが,私も,大学が担う大きな役割だと思っています。大学は地域の成長産業の牽引役であり,また地域の担い手となる人材輩出の役割を担っています。そういった意味で,学長が考えている「人材育成・人間力強化」とは,具体的にはどのようなことなのでしょうか。

山崎 人間力とは,いろいろなことを含んでいますし,捉え方も人によって違います。私は,体力と気力も含めて人間力だと思っていて,その中でも一番の基本は「体」,その次は「精神」,そして「社会性・教養性」だと考えています。私がいつも説くのは,まずは「忍耐力」ということ。それは過去に自分がどれだけ厳しい環境に置かれてきたかという経験によるものと思っています。悲しいこと・嬉しいことも一緒で,過去にどれだけ悲しい目に遭ったかで,その人の心の強さ・折れない心が育っていくのだと思います。極端に言えば,現代の子供達は順調に育ち過ぎなのだと思います。気持ちが折れやすいとか物事が続かないとか,耐える力が足りていないのだと思います。「忍耐力」の次は,「知りたい・学びたい心」とか「考え抜く力」です。未知の領域に対し判断をするためには,データを調べ,これまでの経験に基づくシミュレーションをたくさん行って,考え抜いて結果を出す。イマジネーションや想像力もこれに繋がっています。すべての条件が一緒だと同じことしか出来ない。そうではなくて,そこにどれだけ自分の考えを入れることが出来るかによって他人より上に行くことが出来るのだと思っています。専門分野は必要ですが基礎スキルはとても重要です。活躍している人を見ると分かりますが,基礎がしっかりしている人・素養がある人,言い方を変えれば「ただの人じゃない人」。そんな「ただの人じゃない人」にどうやったらしてあげられるか,そこが人材育成の一番大事なところだと思います。

大野 教養科目を見直されているのもそういった観点からでしょうか。

山崎 それは人間力とも関係していて,我々は,社会に出て活躍するための基本的なスタンダード項目を2~3年議論して絞り込みました。大学にいる間にきちんと基礎力を育てる,育つようなきっかけを作ってあげるということを念頭に置いて検討しました。国立大学の大半が,ある時期教養部を廃止し,共通教育は,各教員が話したい内容,自分の専門に近い内容を持ち寄るといった形に一部なったため,学生が単位の採りやすい科目に集中するといったことも起きてきました。野菜に例えるならば,taidan_yomiuri2好きな野菜しか食べなくなる現象。それで,嫌いな科目も少し混ぜながら,サラダにして全部食べさせようと考えたのです。人間力・人間基礎力として大切な近代史・現代史を例に挙げれば,高校では歴史を時系列で行っているため,近代史・現代史あたりになると教科書には書いてあっても十分に教えてもらえない,その為,今日の日本の枠組みがどのようにして出来たのかを知らないという実態があるわけです。同様に地理では,郷土の地理をあまり分かっていない。このようなことからも,大学における基礎力の育成は大事なのです。

大野 そういった変わる大学の姿を我々報道機関は伝えなければならない。今,金沢大学がどう動いているのか,どういう人材を輩出しているのか,もっとこれから具体的になっていくと思いますが,それをきちんと伝えていきたいと思います。

山崎 そのことは,報道機関に対して一番期待するところです。併せて,国際化・グローバル化を進めている姿もPRしていきたいと思っています。まだまだ準備段階ですが,成果が現れたときにはいろいろな形で報道していただけたら大変嬉しく思います。

大野 それは外国から学生をもっとたくさん集めようということでしょうか。具体的に見える形になってきましたら,是非取材させていただきたいと思います。

山崎 留学生獲得に向けた施設面での取り組みとしては,現在約100名対応の学生留学生宿舎「先魁」があります。これは 8人1ユニットで留学生6人・日本人2人の混住寮で,公用語は英語です。平成28年度には約200名分増やします。それも含め将来的には約1,200名に対応できるよう整備していく計画ですが,現在街にある大学寮はキャンパスから離れていて,また老朽化も進んでいるため,キャンパスの近くに建てることを考えています。環境整備についても同時進行で行っていますので,是非,取り上げていただきたいと思います。

大野 学生募集という意味での国際化もありますが,北陸新幹線の開業や関西延伸計画などを踏まえて,首都圏・関西圏からの学生募集活動についてはどのようにお考えですか。秘策はありますか。

山崎 ターゲティングした施策を打つことです。北関東圏,特に栃木や群馬からの受験生・入学生は今も結構います。北関東出身の学生にインタビューしてみたところ,親の意見が大いに影響していて,「東京の大学に行くなら自宅から通いなさい」,「金沢だったら学生時代くらい住んでもいい」と親が言うらしいです。金沢という街の魅力も武器にして,学生募集活動を行いたいと考えています。

山崎 7月開催の「学長と記者との懇談会」で,報道機関との連携協力協定の推進についてお話させていただいたとおり,大学と報道機関とで何か共同して実施できればと考えています。大学の役割はいろいろありますが,その成果を報道機関に上手く報道してもらうことによって人を地域に集めることが出来るのではと思っています。例えば,能登半島で抱えている過疎・高齢化への取り組みは全国のモデルケースになり得るものであり,この取り組みを広く知ってもらうには大学だけの力では難しく,報道機関の力をお借りできればと思います。これまでもいろいろやっていただいていますが,更に何か新しいことを考えて行きたいと思います。

大野 是非,私共も一緒に考えさせていただきたい。やはり国立大学は地方にとって重要な役割を担っています。いろんな研究もありますし,研究フィールドもあります。これは首都圏から見ても分からないことで,まさに地方の視点から何かやっていくことが大事だと思います。この金沢にある金沢大学と我々とでいろいろ考えてより良いものを,石川県民の生活向上,また学生のさらなる成長・発展にお役に立てることを一緒に行いたいと考えています。

山崎 金沢は今,光が当たっていますが,その光の部分しか見ていない人が多く,浮かれていて影の部分があることを忘れているのではないかと思います。金沢でも,東京と同じ一極集中が起こっていて,それは能登だけの特別な問題というものではなく,石川県の大きな課題なのです。地方創生に対して大学も精一杯やらせていただきます。成功事例を挙げれば応用案も出て来ますし,それが県内・国内に広まっていければいいと考えています。

大野 お互いに手を携えて行くのと同時に,それぞれの役割は違いますからお互いの特徴を活かしていけば,より良いものが出来るのではないかと思います。それこそ先程のお話のイマジネーション力です。是非,これからもよろしくお願いいたします。

山崎 こちらこそよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。